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第156話 何か悪巧み~?

「主任。今日は定時で上がってください」

「あら、私を追い出して何か悪巧み~?」


 事務の女性社員の言葉にセナは、ふふ、と笑う。

 普段なら皆の仕事の進捗を一通り確認してから、明日の社の全体の流れをプランニングしてから帰宅する。

 そのシステムは6月に派遣で来ていた鬼灯によって提唱され、自社の生産性を上げたものの、使いこなして全体に反映させているのはセナだけだった。


「私たちも主任の仕事を肩代わり出来るようになったかの確認したいのです」

「明日の朝、チェックをお願いします」


 それを今日は事務の女の子たちが肩代わりしてくれるとの事。挑戦しようとする部下の提案にセナは微笑む。


「それならお願いしようかしら」


 出来る人間が増えるのは良い事だ。


「鮫島主任! 今日ですよね! ディナ―――」

「沖合さん。さっき黒鉄先生から指定の連絡がありましたよ。今すぐ行った方が良いと思います」

「ちょっ! 何でもっと早く言ってくれないの!?」

「何度も電話しましたよ。でも折り返しが無くて会社に帰って来てからしか話せないなら仕方ないでしょう?」


 政治家からの指定を持つほどに沖合の仕事ぶりは優れていると社内でも認められていた。慌てて飛び出す沖合をセナは、ふふ、と笑って見送る。


「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ~」


 気を使ってくれる会社の人たちに感謝しつつ、セナはいつもよりも早く家に帰ることにした。






 会社を出て、駅まで行くバスに普段より二つは早い時間帯で乗り込む。

 始まり出した帰宅ラッシュに座れる所は無いので入り口近くの吊革を掴む。

 揺られる事30分。駅に到着し、バスから降りるとそこからJRで4駅程登る。

 女性専用車輌に乗って、吊革に掴まって外の流れる景色を見ながら昔を思い出した。


 あの人が過去を追いかける事を助ける為に、仕事先に近いアパートに引っ越した。

 唐突の生活環境の変化にリンカにはとても寂しい思いをさせてしまっただろう。なにせ、私たちの都合で何も知らない土地に連れてきてしまったのだから。


「……」


 こんな時、父と母が生きていたらと考える事がある。

 父は厳格だったので、あの人の事は素直に受け入れられなかっただろう。その点、母は私の判断を否定せず、一度やってみなさい、と背中を押してくれる。

 そして、二人ともリンカの事は目に入れたい程可愛がってくれたハズ。あの厳格な父がデレデレする所を見れなかったのは、かなり残念だ。


“誘拐じゃないです! 最近、隣に越してきた鳳健吾と言います! お嬢さんが部屋の前で座られてたものですから! ハイ!”


「ふふ」


 彼と最初に話したのはスマホに連絡を貰った事だった。

 リンカからの番号に出てみると若い男の子の声。そして、リンカにも彼の事を聞いてみると、問題なさそうだったので世話をお願いしたのだ。


「もう六年も経つのね」


 自分は仕事で娘にはかまえない。寂しい思いをさせて、素行悪く育ってしまう懸念があった。将来悪い母親だと言われようとも、自分達の都合を娘に押し付けた報いだと受け入れるつもりだった。


“お帰りなさい! 今日ね、お兄ちゃんとデパートに行ったんだ! そしたら友達が増えたよ! ヒカリちゃんって言うの――”


 彼は私の代わりに娘の心を支えてくれた。寂しい思いをさせてしまい、恨み辛みをぶつけても良いのに……娘は楽しそうに日々の事を私に話してくれる。


“ご飯どう? 一応、包丁と火はお兄ちゃんの監修が入ってます”

“生煮えとかは無いと思いますけど”


 二人して夕飯を作ってくれた時は本当に嬉しかった。私が、美味しい、と言うと二人はハイタッチして、今後はあたしが夕飯は作るから、お母さんは仕事に集中しても良いよ! とリンカが言ってくれた時には思わず涙が出た。


 ある時、あの人絡みでリンカに害が及び、更に彼も捕まったと聞いた時は、本当にあの人に連絡しなければと思った。


“今、オレは出ました。セナさんはアパートで待っててください。リンカちゃんは必ずオレが連れ帰ります”


 彼が中心となって色々な人が協力してくれたのだろう。アパートで待っていると彼は眠るリンカを背負って帰ってきてくれた。


“リンカちゃんが一番心を許せるのは世界でセナさんだけですよ”


 血の繋がる家族はどんな形になろうとも切れない絆で繋がり、それを裂こうする存在は許せないと言ってくれた。


“オレには怖いジジィとバァさんしかいないので。リンカちゃんにはセナさんみたいな美人で優しいお母さんが居て羨ましいなぁ”


 彼は私にとってもう息子の様なものだった。リンカも少しツンツンしているが彼の事を再び受け入れてくれている。


「まったく、あの子は……天の邪鬼なんだから」


 これから何が待ち受けるのかは分からないが、彼が本当の息子となってくれた時は、全てが解決した時だろう。


「ふふ」


 私は二人の成長を見守りながらお酒を片手にその時を待つことにしよう。

 JRが最寄駅に着いたので、他の人と一緒に車輌から降りる。

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