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第140話 やっぱやらんわ

 ピンが回転しながら宙を舞う。

 多芸なジャグリングを目の前にして、集まった少年少女たちは目を輝かせた。


 突如として現れた仮面を着けた道化師は本来なら不審者だろう。しかし娯楽の少ない村において、子供たちが物珍しく注目する様を取り上げるのは、見守る大人たちは些か気が引けていた。


 そして、次はバルーンアートを始め、子供たちのリクエストに可能な限り答えて行く。

 道化師はすっかり人気者になっていた。


「アレが例のヤツか」


 老人と老婆を乗せた軽トラが少し離れた位置で止まる。シズカは自転車で向かってる最中だった。


「仮面着けとるのぅ。そこはピエロじゃろ」


 老人はエンジンを切ると軽トラから降りる。老婆も同じ様に後に続いた。

 道化師は軽い手品を披露し、お菓子を子供たちに配り始めた。


「幼稚な手品じゃのう」


 横からの声に道化師を含む、一同が老人と老婆に注目する。


「あ、ばっさま!」

「じっさまも()る!」

「銃を持っとらん!」

「凄い返り血じゃ!」

「ほっほ。道化師の小僧、他にも何かやってみい」


 老婆が楽しそうに絡み始めたので老人は腕を組んで顛末を黙って見守る。


 道化師はピンの数を増やした。その数計8本。高速のジャグリングを始め、一つずつ順番にジャグリングから外して行くと、くるくる、ストッ、とピンは近くの収納ボックスに綺麗に収まった。


 すげー、とテクニカルな神業に子供たちは大喜びだ。


「ほっほ。ピンを借りるで」


 今度は老婆の番。道化師と同じ様に8本でジャグリングを始めると、また一つケースに納めて行く。

 流れは完全に同じ。しかし、ジャグリングの本数は減ってない。

 減ったピンの代わりに入ったのは、鎌(花子)、ジェイソン小刀クリークであった。しかも抜き身。


「すげー!」

「かっけー!」

「どーなってんの!? あれ!?」


 より危険度と難易度の高いジャグリングに子供達は大盛況である。

 ピンが全てケースに収まると、残った刃物三つは近くの木に、サク、ガッ、トス、と各々刺さる。


「…………」


 次に道化師は、お菓子を隠して出すと言う手品を老婆に仕掛けた。

 手の平の飴を見せ、次の間には消えると、それは老婆のポケットに――


「ないぞ?」


 老婆はポケットをひっくり返して飴が無い事をアピールする。そして、あったあった、と道化師の肩を叩くとポロポロと飴がこぼれ落ちた。


「……」

「膨らんでない風船三つくれや」


 今度は老婆が仕掛ける。

 風船を催促し受けとると、口に一つ、両耳の穴に引っ付ける様に手で押さえると、


「ふー!!」


 口と両耳からの空気に、風船は三つ同時に膨らんだ。程よい大きさになった風船三つを、きゅっ、きゅっ、と縛り道化師に差し出す。


「ほれやるわ」

「……」


 浮かぶ風船を道化師は受け取り、どーなってんだ? と注目していると、パパパンッ! と風船は突如として破裂した。


「やっぱやらんわ」


 老婆は嬉々として吹き矢で、渡した風船を割った。

 全てを上回る老婆のテクニックに道化師は膝から崩れ落ちると、ガクッと項垂れた。


「ばっさまの勝ちじゃ!」


 謎の対決を制した老婆に子供達からの称賛の嵐。老婆は、びくとりー、とVピースを決める。


「……ほれ、見せ物は終わりじゃ。帰って宿題でも済ませぇ」

「じっさまが動き出した!?」

「まずい! 宿題やっとらん!」

「逃げろー!」


 村で一番怖い人間の言葉に、蜘蛛の子を散らすように子供達は逃げていく。見守っていた大人達も、一度老人に会釈して、その場を後にした。


「全く……しつこいのぅ。お前も」


 残された道化師を老人は見下ろす。


「ばれちゃって……ますかぁ」

「前から間が空いたと思ったら、下らねぇ事しやがって」

「ワシは楽しめたがのう」

「お前は黙っとれ」


 道化師は立ち上がると仮面を外す。


「娯楽の少なそうなこの村を楽しませに来たんですよ。オレは」


 仮面の奥から現れた顔は、国会議員にして総理大臣の右腕と言われる側近、阿見笠流(あみかさながれ)だった。


「娯楽が少なくて悪かったな」

「ほっほ。ワシは楽しかったで。しかし、もう少し、ばりえーしょん、を増やすべきじゃな。ジャグリングに果物でも混ぜい」

「そっか、その手があったかぁ~」

「大道芸の話はもうええわ」


 こんな芸を披露する為にわざわざ来たとは考えられない。老人は前からナガレが度々訪れたている事は知っている。


「少しお話をよろしいですか?」


 本来なら、帰れ、と一蹴する所だが、シズカの一件を動いた事もあり文字通り、少しだけ話を聞くことにした。


「言うてみい」


 と、ナガレは一枚の名刺を差し出す。


「彼を問い詰めても問題が無いかどうかを確認しておきたくてですねぇ」


 それは『鳳健吾』の名前が載っていた名刺であった。

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