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第137話 Love you

 オレも男なので色々と見聞は広い。

 そう言う知識は漫画や動画が主で、いくら女性関係の身内が多いとは言えど、実際に自分がそう言う場面に遭遇した場合など、考えもしなかった。


「……ニックス」


 暗闇の浴室。停電ではない。背後でダイヤの声。閉まる扉。浴室に鍵なんで高尚なモノは一人暮らしの部屋には存在しない。


「ダイヤ、待て。フリーズ。わかるな?」


 シャワーの流れる音が唯一の雑音だ。

 オレは背を向けたまま、必死に思考を働かせる。シチュエーションと、そう言うのをネタに自家発電をやってきた事もあり、何と言うか……そう、うん……身体は期待しちゃってたりするのだ。


「……」


 背中を触られる感覚。止まれ(フリーズ)は効果が無いらしい。近い。拒絶……駄目だ。彼女を傷つける。なら、本能に任せて全て委ねるか? マックスも言ってたじゃないか。ダイヤはオレに気があるって。けど、これは――


「Love you……」


 ダイヤは本気だ。このまま身を委ねても構わないと覚悟を決めているのが口調から解る。

 背中に寄り添って来る感覚に本能が沸き上がる。多分ダイヤも裸。体温の密着度が半端ない。オレの心臓も緊張に速鳴りを始める。

 けど、異常な程に脳は冷静だった。


“お前は誰も愛せない”


 ジジィの言葉が木霊し、オレに答えを突きつける。

 ……ああ。解ってるよ。うるせぇクソジジィ! このまま全て放り出して、流れに委ねても結果的に深く傷つけてしまうのは――


「ニックス――」


 オレはシャワーから出るお湯を水に切り替えると、シャワーヘッドを取って頭から被る。


「ワッ!? チョット――」


 ダイヤは驚いて離れた。


「お前もちょっと頭冷やせ」

「ヒャー!? ニックス! チョット!」


 眼を閉じた状態でダイヤにも放水。彼女は暗闇状態と後ろ手では扉を上手く開けられず、食らうがまま。


「ストップ! Stoooop!!」


 本気の怒り声を感じたのでオレは止めた。


「ニックス……ヒドイネ」

「電気消して入って来るヤツが悪い」

「……ニックス……ワタシ――」

「その話はこんな状況でするモンじゃないだろ? 後でちゃんと向き合うから」

「……」


 先に出るからな、とオレはダイヤを避けて浴室の扉を開けた。






 オレはもうゲームはする事はないと思い、簡単に片付けてPCをいじっていた。

 適当なサイトを巡回しているとシャワーの音が止まり髪の毛を拭きながらダイヤが出てくる。


「ニックス! さっきの話――」

「ん」


 オレは手に持つドライヤーを見せ、ダイヤの長髪を乾かす意思を見せる。


「……」


 話の腰を折られたダイヤは少し不貞腐れながらも、一人では手間がかかると知っているので背を向けて座った。


「お客さん、痒いところはありませんかー?」

「ナイヨ」


 少しイライラしたダイヤの言葉は可愛いモノだ。オレは特に気にすること無くドライヤー乾燥を続けた。


「これはフォスター姉妹の誰かの役目だったな」


 特にサンに限っては、お姉様の髪に触れたらコロス、とか言ってオレがダイヤの髪に触ろうとすると、いつも猫みたいに威嚇してきたっけ。


「フフ。ニックスが来る前はワタシは一人でヤッテタネ」

「そうなのか?」

「たまにミストに手伝って貰ってタケドネ」


 フォスター四姉妹は同じマンションに住むがダイヤとミストは同室でも、サンとリンクは別の部屋に住んでいる。


「サンはワタシと同じ様にロングだったヨ」

「そういや、そうだったな」


 ダイヤの牧場(じっか)に行った時、マザーからスクール時代のアルバムを見せて貰った。フォスター四姉妹は全員美少女で、ファーザーがオレを撃ち殺したくなるのも理解出来るレベルだった。


「ワタシ達を護る為にカットシタネ」


 確かに。サンの勤務先では長い髪は推奨されないな。


「リンクはヘアーコーディネートが好きネ」

「ああ。オレも寝てる間に可愛くされちまったな」


 三女のリンクは、髪の毛を結ぶのが好きだった。本人はヘアーコーディネートの仕事に着きたいとハイスクールを出てからバイトと専門学校を頑張っている。

 ちなみにオレは一回、モヒカンにされた事があり1ヶ月程、テンガロンハットが手放せなかった。(サンとミストは爆笑して、リンクは必死に謝っていたが)


「ミストも男嫌いだったケド、ニックスのおかげでだいぶマシヨ」

「ははは。オレは撃ち殺されそうになったけどな」


 スクールで射撃部に入っていたミストの銃の腕前はかなり高く、使用感も本職顔負けに秀でていた。何でも、ファーザーに撃ち方を習ったのだとか。恐ろしい……あ、オレも銃を振り回す身内がいるか。


「ワタシはそんなシスターズが大好きヨ」


 その感情を誇らしく口にするダイヤ。四姉妹の絆を強く感じられる言葉だった。


「オレはお前達が羨ましいよ」


 髪を乾かし終えたオレはドライヤーを片付ける。


「オレは一人っ子だからさ。親戚はいたけど」


 竜二やシズカは歳が近いが、兄弟と言うよりも距離感から、親戚、と言う印象が強い。向こうもジジィの影響で、一歩引いた付き合いをしていた様だし。


「……リンカハ?」

「リンカちゃんは――」


 妹の様なもの、と断言するには少し関係が変わった気がする。しかし、彼女の存在はオレにとって……


「居るのが当然なヒトなのかも」


 帰ってきてムスッとしていたけれど、彼女は何も変わっていなかった。年相応に行動原理が解らない事が垣間見えるが、今のところ、上手く付き合えている……ハズ!


「……ワタシはニックスが帰ってからハートに穴が空いたみたいヨ」


 そして、ダイヤは己の内を口にする。

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