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第13話 大きくなったよね(キリッ

「はーい、報告をしまーす」


 鮫島家の食卓。酔ったセナさんは唐突にそう言うと立ち上がり部屋の奥へ入っていった。

 酔った時のセナさんの動きは実の娘であるリンカにさえ予測がつかないらしい。

 家猫だと思って諦めているようで、たこ焼きの製造に集中していた。


「ケンゴ君ー、こっちとこっち、どっちを見たいー?」


 セナさんは戻ると右手と左手に雑誌とアルバムのような本を持っていた。

 それを見たリンカは一瞬で反応し立ち上がる。


「お母さん! それどうする気?! しかもそれ! 買ってたの?!」

「お母さんの眼は誤魔化せませんよ~。だってケンゴ君。リンちゃんの中学の三年間知らないでしょ~?」

「別に見せなくていい!」

「あらあらこの子ったら」


 わーわーいいながら悶える母娘(おやこ)。リンカの必死な様子から黒歴史でも載ってるのかもしれない。


「その雑誌の方ってヒカリちゃんも載ってるやつですか?」


 ふと、オレは気がつく。

 セナさんの持つ一つは、表紙は違ってもタイトルは月に一度、地方で発行してるモデル雑誌だ。


「そうよ~。リンちゃんが載ってるから買っちゃった」

「買わなくて良かったのに……」

「凄いなぁ。リンカちゃんもそういうのに選ばれるんだ」

「……別に。ヒカリに頼まれて仕方なく」

「それでも凄いよ」


 オレが本心で褒めていると、リンカは雑誌の回収を諦めた様子で、すとんと座る。そしてたこ焼きをひっくり返し始めた。

 何個かタコを入れ忘れるミスを犯しているが、それはオレが処理をしよう。


「はい」


 セナさんは雑誌を渡してくる。オレは一度リンカちゃんを、いいの? と見るが、好きにしろよ、と彼女は言って目を逸らした。


「では、お言葉に甘えて」


 それは一年くらい前の号で、夏の涼しげな服装を中心に着こなすリンカが写っていた。

 母親譲りの豊満な胸を強調せず、キャラクター全体を魅せるデザインの服はリンカの為にコーディネートされていると一目でわかった。

 しかも、幾つかの違う服でも同じ印象を受ける。こりゃ、プロの仕事だ。


「セナさん。これいくらで譲ってくれます?」

「10億~」

「くそぅ。手が出せねぇ」

「何言ってんだ……」


 オレとセナさんのやり取りに呆れるリンカ。

 妹分の成長を見逃したのは実に痛い。一瞬、アメリカに行ったことを後悔しちまったぜ。


 後から知ったのだが、この号はリンカの枠が急ごしらえだった為に、発行部数が普段の半分以下であったらしい。

 しかし、予想外に反響が高く、数日で売り切れて再版の声が凄まじく多かったんだとか。


「それで?」

「ん?」

「感想……言えよ」


 リンカは目を伏せて聞いてくる。ヒカリちゃんの例もあるが、ここは正直に言う方が良いだろう。


「おっぱい」

「…………は?」

「大きくなったよね」


 オレは少し酔っていた事もあり、顎に手を当ててキリっと正直に言った。

 リンカは物言わずに立ち上がると、まるで親を殺した怨敵を見るような目と殺意で、たこ焼き返しを逆手に持ってオレに振り上げる。


「ひぃぃ何何!?」

「うるさい! ばか! ばか!」

「どうどう」


 顔を真っ赤にしてオレを刺殺しそうな勢いのリンカをセナさんは楽しそうに羽交い締めして止める。


 そんなこんなでオレと鮫島家の夜はふけて行った。






 場に残るのが嫌だったのか、落ち着いたリンカは、お風呂! と言って場を去った。

 オレは残りのたこ焼きを処理しながら、リンカが戻った時にどうやって機嫌をとるかを考える。

 あ、これタコ入ってねぇや。


「心配してたの」


 また、少し真面目モードに入ったセナさんが口を開く。


「あの子、ケンゴ君が居なくなってなら凄く寂しそうにしてたから」

「オレもギリギリまで状況が変わるかもしれないと思って黙ってましたからね」


 当時、海外転勤は未確定だった。

 本来は鬼灯(ほおずき)先輩が行く予定だったが、唐突に4課に専門的なヘルプが必要になり先輩はそちらに対応する事になったのだ。

 4課の総動員は会社の命運を左右する。

 第二候補として獅子堂課長がオレを上げており、オレは課長と先輩に普段の恩を返せる良い機会だと転勤を承諾した。


 それでも鬼灯先輩は問題を処理して自分が行くつもりで奔走したが流石に無理だった。


「一年くらい無理して笑ってたわ。ケンゴ君の部屋の前で座ってた事もあったのよ」

「それは……すみません」


 思わず謝る。まさか、そこまでリンカを寂しがらせてしまったなんて。


「ふふ。別にケンゴ君のせいじゃないわ。あの子が我が儘なだけ。もう少し素直になってくれれば私も安心できるんだけどね」

「オレも居ますから。まぁ……毒の吐き(どころ)くらいにはなりますよ」


 獅子堂課長も女子高生は多感な時期だと言っていたし、もう少し扱いに慣れる事が出来れば向けられる毒も減るだろう。

 それまで耐えてくれよオレの精神(メンタル)


「ふふ。ケンゴ君はもう少し自覚しなさいな」

「? 何をです?」

「これ以上は黙秘権を使いまーす」


 そう言ってセナさんは酒を飲む。身体にろ過装置でもついてるってくらい飲むよなぁ、この人。

 胸にでも供給されてるのだろうか。邪悪なクマと目が合う。


「ケンゴ君」

「はい」

「リンカの事。よろしくね」

「それ、さっきも言いましたよ」

「そうかしら?」


 そう言うとセナさんはレモンハイを持ったまま俯せになった。

 唐突に電池が切れた人形のように停止したのでオレはビビる。そこへ風呂上がりでパジャマを着たリンカが現れる。


「お母さん。お風呂空いた……もう、やっぱり」


 布団に行くよ、と軽く揺さぶってリンカは抱きつくセナさんを運ぶ。

 オレはたこ焼き機も冷えた事を確認し、片付けを始めた。

男は凸に目が行く

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