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第128話 大和撫子を磨くが良い!

 駅構内に入ると注目された。

 そりゃそうだ。『忍殺』『猛虎!』『王龍!』『提督』『俯瞰』『一番艦』なんて文字がプリントされたTシャツ軍団が駅構内に入ってくればオレだって注目する。

 内二人は木刀持ちで、一人は殺意を纏っているので、関わろうとする人間が皆無なのが幸いしている。

 ホント、大丈夫かよ。コレ。


 駅員を呼ばれる前にケリをつけたい、と思っているとオレ達の以上の違和感を見つけた。


「……もしかしてあれか?」


 改札へ向かう矢先である。大きな看板柱の前に腕を組んで背筋を伸ばして佇む覆面を着けた男が立っていた。

 動画で見た忍者と一致するので間違いない。

 あまりに普通に堂々としているので、一瞬見間違いかと思った。眠っている様に眼は閉じている。


「……七海課長。アレですか?」

「あ?」


 何故か先頭を歩く七海課長と武器持ち二人が気づいて無い様子だったので指摘する。


「――ヤツだ」

「居たね、海」

「居たね、空」

「沖縄の時と何も姿が変わっておりませんな」

「ニックス、カレヨ! ヒップタッチニンジャ!」


 満場一致で容疑者と断定。全員で逃がさない様に距離を置いて取り囲む。ホント……マジでなにやってんだろうな、オレら。


「俺が話しかけるから、お前らは逃がさない様に囲ってろ」

「「お任せです」」

「御意」

「シュリケーンに気をつけてクダサイ!」

「……殺さないでくださいよ?」


 うるせーな、わかったよ。とオレの間違ってない台詞にだけ悪態をつく七海課長はTシャツの胸にプリントされた『忍殺』の文字を体現するかの様に近づいて行く。






「戻りやした」

「ご苦労だったね」


 数日に渡ってある一件の調査を終えた箕輪は4課に帰還した。気だるそうに自分の肩を揉みながら席に着く。


「鷹さん~、課長の姿が見えやせんね」

「少し出てるよ。ちなみに国尾は午後は休みさ」

「忍者の件ですか~?」


 箕輪は帰りがけに1課に寄った際、陸からその話を聞いていた。


「あんまり(おおやけ)にするんじゃないよ」

「俺は行かなくていいんですかい?」

「十分さ。空と海にケイも行ってる。オマケが三人でもお釣が来るよ。それにバックアップも着いてるからね」

「忍者が気の毒すっね」

「これ以上のふざけた面倒事はゴメンだからね。箕輪、念のため待機してな」

「へーい」


 まぁ、あの七海課長が出ているのだ。呼ばれる時は火消しとしてだろう。

 箕輪は内ポケットからチョコバーを取り出すとむしゃむしゃと間食を始めた。






「おい」


 七海課長は看板柱の前に佇む忍者に声をかけた。すると、忍者は閉じていた眼をゆっくり開ける。


「……拙者(せっしゃ)を視認する者が居るとはな」

「なに言ってんだテメェ。忍者ごっこはガキの頃で卒業しとけ」

「忍者ごっこだと!!!?」


 カッ! と眼を見開いて叫ぶ忍者に七海課長は思わず驚く。


「拙者の格好はごっこなどではない!! 暁才蔵(あかつきさいぞう)と言う名と共に、その魂を現代まで受け継ぐ忍びの末裔ぞ!!!」

「お、おお……なんか悪かった……じゃ! 無ぇよ!!」


 凄まじい怒りの感情に七海課長は一瞬だけ圧された。しかし、すぐに闘志を取り戻し睨み返す。


「沖縄の一件、忘れたとは言わせねぇぞ」

「琉球……ふっ」

「何笑ってやがる」

「我が姫君を捜して日の本を巡り歩いたが……何とも嘆かわしい!! 祖国に大和撫子は片手に数える程しかいない!!」


 再び、カッ! と眼を見開く暁才蔵。この人、本気だ。本気でそんな事を言っている。思わず呑まれそうになる程の凄みを見せるが……普通に頭おかしい。


「訳わかんねぇ事を言いやがって。とにかく覆面を取れや」


 七海課長が至極全うな言葉で才蔵の覆面に手を伸ばす。すると、


「何をするか!」


 才蔵は、ヴゥン、と残像を残して七海課長をすり抜ける様にかわすと、過ぎ去り様にそのお尻を叩いた。

 七海課長は、ひん!? と普段からは想像もつかない様な短い悲鳴を上げる。


「下女ごときに我が素顔は曝せん! 麗しい姫君ならともかくな!」


 囲んでいるオレらは戦慄する。あの七海課長に触れるどころか……お尻を叩くなど、どんな天変地異が起こるのか全く想像がつかない。なんて事しやがる!!


「大和撫子を磨くが良い!」


 何事も無かったかのように後ろ眼でそう言い放つ才蔵。コイツ……自分が何をしたのか理解してねぇ!


「ぶっ殺す――」


 思わず味方であるオレらまで冷や汗が出る七海課長の言葉。殺意100%の回し蹴りが才蔵の頭を消失させる。その威力たるや。蹴りの風圧が距離を置いたオレ達の髪も撫でる程だ。


「甘いぞ! 下女!」


 しかし、才蔵は頭の後ろに目が着いているかのごとく屈んでかわしていた。中々の身体能力。やはり只者ではないか。頭の方も。


「馬鹿が」


 七海課長も冷静だ。かわした才蔵の服を掴むと、残った拳を強く握り締める。あれか……下段突きってヤツを放とうとしてる。コンクリートどころか石床もぶち抜きそうな気迫がある。


「フン!」


 だが、才蔵はルンバの様にその場で横に回転。七海課長の掴みを外すと、屈んだ状態からのサマーソルトを見舞う。


「チッ!」


 七海課長は距離を取らざるえない。蹴りの勢いで回転し、シュタッと腕を組んで立つ才蔵。そこへ、空さん海さんの木刀が炸裂する。左右から才蔵の首を狙って振り抜かれた。


「甘いぞ!」


 才蔵は肘を立てて木刀を受ける。あれは服の下に小手仕込んでるな。何を想定してやがるんだ?


「破ッ!」

「「!」」


 そして、一足、二足、と空さん海さんに蹴りを放つ。咄嗟に木刀でガードする二人は身体を浮かせて衝撃も殺し、ざー、と少だけ後方に滑った。


「コイツ、やるね海」

「そうだね、空」


 荒々しい雰囲気を静かに纏う御二方(オルトロス)。そして、周囲景色が歪む程の殺意を纏う七海課長。

 三方向から囲まれる才蔵は腕を組み、直立不動で眼を閉じて佇む。なにやってんだ、さっさと逃げろ。殺されるぞ。


「空、海。機動力を削げ。俺が()る」


 ゴキッと腕を鳴らす七海課長。


「「了解でーす」」


 チャキッと笑顔で木刀を構える空さん海さん。


「コレがジャパニーズニンジャバトルネ!」


 目の前の戦いに興奮するダイヤ。


「七海課長の本気は久しぶりに見ますなぁ」


 冷静に戦力を分析するヨシ君。


「どーすりゃ死人が出ずに済むんだよ……」


 冷静なのはオレだけだ。

 止める? 誰を? 七海課長を? 無理に決まってんだろ。

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