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第125話 魑魅魍魎の巣

 ノックをすると、どうぞ、と言う声にオレは、失礼しまーす、と扉を開ける。

 中は他のオフィスと少し違う。棚はやたらと鍵付きだったり、扉の近くに来客用の空間があったりと、4課特有の仕様が見て取れた。

 ドローンなんかも端に置いてある。多分ヨシ君のだな。


「おや? 鳳君じゃないですかー」

「大見さん」

「大見さんじゃなくて、空でいいって言ってるでしょー」


 健康サイドテールの4課女性社員、大見空(おおみそら)さんはオレを見て近づいてくる。


「おや? 鳳君じゃないですかー」


 すると、空さんが分裂したように同じ人物がひょこっと後ろから同じ台詞で顔を出した。


「……大見……(うみ)さん?」

「あっは! 正解ー♪」


 パチパチ、と拍手する空さんと海さん。一糸乱れぬ動作に見ているだけでゲシュタルトが崩壊しそうな感覚を覚える。


「ツインズネ! スゴイ、シンクロヨ!」


 ダイヤは空さんと海さんの行動に素直に感激していた。


「あ、噂の外国人だよ、海」

「あ、噂の外国人だよ、空」

「あの、すみません。ホントに頭おかしくなりそうなので止めてくれますか?」

「あっは、ごめんごめん。久しぶりに鳳君を見て、テンション上がっちゃってさ」

「わざわざその人、紹介しに来てくれたの?」


 その言葉に待ってましたと言わんばかりにダイヤは声を張り上げる。


「ダイヤ・フォスターデス! アメリカ生まれのアメリカ育ちネ! オス!」


 オス? ああ、押忍ね。オレが知らないパターンがまだあったのか。それもマックスの入れ知恵だな。

 そんなダイヤに対抗するように二人は顔を合わせて、


「「大見」」


 と声をハモらせ、


「空」

「海」

「「でーす」」


 プリ○ュアの変身完了シーンみたいな決めポーズで自己紹介してくれた。


「ベリーアメイジング!」


 ダイヤは大喜び。空さん海さんも、押忍~、と構えて締めくくる。


「鳳君」

「何ですか?」

「アメリカ生まれだって。このB」

「……」

「アメリカ育ちだって。このB」

「「もう触った?」」

「お二人は弁護士ですよね!?」


 ダイヤは頭に、? を浮かべているが、明らかにスーツ越しに強調される彼女の山二つの事を言っている。


「正確には私たちじゃなくて、陸君が資格持ってるから」

「法廷に立つのは陸君でーす。私たちは補佐兼尋問役」


 このオルトロスが自由に歩き回っていると思ったら首輪を引っ張る役が不在だったからか。

 ん? 今、尋問役って言ったか?


「空、海」


 窓辺に立つ人物に呼ばれて二人は「「はい課長」」とハモる。


「1課の相談に行ってる陸を手伝いに行け」

「アイアイ」

「サー」


 ビシッと敬礼する空さん海さんは、今度大見家で腹上死チャレンジしなーい? と名刺をオレの外胸ポケットに差し込んで、キャッキャッ、と去って行った。


「……ダイヤ。これ貰っとけ。オレはもう持ってるから」


 ダイヤに空さん海さんの名刺をダイヤに渡す。


「イイノ?」

「ああ」


 サキュバスの側面もあるんだよな、あの二人。しかもバイなのでどっちも喰う。


「良く来た」


 そして、オレは覇気のない声をかけられる。空さん海さんが課長と呼ばれた彼は課長席から立ち、背をこちらに向けて外を見ていた。

 彼が魑魅魍魎の(おさ)


「3課の鳳健吾です。入室時から騒がしくてすみま――」


 と、オレは課長席の上に置かれたランチボックスが目につく。どっかで見た様な――


「あ……もしかして」

「黙っていたつもりはないよ」


 振り向いたのは蜂に刺された時に食堂で相席した彼だった。


「4課課長の真鍋聖(まなべこうき)だ」


 喋るだけで伝わる静かな雰囲気。しかし、それが逆に異質なモノであると感じさせる。

 4課の面々は誰しもがエネルギーに溢れていたが、彼だけは決して揺れない水面の様に物静かだった。

 良く言えばポーカーフェイス。悪く見るなら死人の様な人。なる程……確かにこの人なら決起はやる4課の面々を取りまとめられるだろう。


「ワタシはダイヤ――」

「二人の会話を聞いていた。自己紹介は必要ない」

「ムウ……」

「ここに来たのは――」

「それも鬼灯から聞いている。詳しい話は他を挟もうか」

「もう一人ですか?」


 すると会議室が開き、そこからヨシ君と――


「げっ鷹さん!?」


 オレはよく知る顔を目の当たりにして思わずそんな声が出た。そう言えば……この人居たんだった!


「なんだいケンゴ。その、げっ、てのは」


 弁護士界隈の生き字引である、三鷹弥生(みたかやよい)はマジモノのレジェンドであり、生きた伝説などと言われている。


「お久しぶりです……」

「本当だよ。こんな近くにいるのに今さらだね」


 ジロリ、と睨んでくる小柄な老婆。威圧がやべぇ。ヨシ君は、ほっほ、と隣でオレと鷹さんの様子を楽しんでる。助けてくれ~。


「ダイヤ・フォスターデス! 今日はオ世話になりにキマシタ!」


 うぉぉ!? そこで空気を読まないダイヤの自己紹介が炸裂! ヨシ君は、丁寧にどうも、と名乗りながら名刺を渡す。そして鷹さんは――


「遠路はるばる良く来たね。故郷の地とは違って慣れない事もあるだろうから、困った事があるならいつでも頼りな」


 と、言って名刺をダイヤに渡す。わぉ。誰ぇ? 鷹さんってそんなキャラじゃないですよね?

 すると、ヨシ君が寄ってくる。


「まぁ、鷹殿は年下の女児には甘いですからなぁ」

「そう言えばそんな気はする」


 田舎で見たときはやたらとシズカや叔母さんには優しかった印象。


「ちなみに我輩の地元では“盆暮れババァ”と呼ばれる怪談になっておりますぞ」


 鷹さん、既に人間の域を出てしまったのか……


「なにコソコソしてるんだい?」


 やべ聞こえてた。オレは、何でもないですよ、と誤魔化す様に、ははは、と笑う。


「それで、今日は何の様だい?」

「鷹さん、私から説明するよ。一応、ヨシも同席して聞いてくれるか?」

「御意」


 そう言うと真鍋課長は会議室の扉を開けた。

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