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第124話 破ァー!

 本社最上階。

 一般的社員にはあまり馴染みのないそのフロアは会議室や社長室や4課のオフィスがある。


「この独特の空気よ」


 エレベーターから廊下に出ると少しだけ締め付けられる様な空気は相変わらずだ。

 組織のトップと裏側を取り仕切る者たちは、生半可な存在ではない裏づけである。

 ラストダンジョンのような雰囲気は決して気のせいではなく、ラスボスと幹部が同じフロアとか、無理ゲーも良い所だ。


「ニックス、良い眺めネ」


 廊下の窓から景色を俯瞰するダイヤはいつも通り。プレッシャーなんて屁のかっぱな、様子はある意味、羨ましいぜ。


「あまり騒がしくするなよ。ここは特にヤバい所だから。間違ってもキスから入る挨拶はしないこと」

「オ、OKネ」


 オレの凄みが伝わったダイヤは流石に緊張してくれた。

 廊下を進みながら扉の上にある部屋名の見て『4課』と書かれた札を見つける。

 ここか……オレは深呼吸してから扉をノックする。


「――」


 すると、内側から扉が先に開いた。中は機密重視の為か二重扉になっており、中の扉は曇りガラスである。そして、その前には――


「ほっほう! 鳳じゃないか! どうした! 反省室に向かう小学生みたいな顔をして! 何かやらかしたか~?」


 扉を開けた国尾さんはオレを見て、わっと笑顔を向けてくる。早速、中ボスと接敵した。作戦コマンドは“ケツを護れ!”


「ど、どうも」

「どうもじゃ解らんだろ~。ほら、中に入りなさい」


 国尾さんが肩を組んでくる。

 ここが目的で来たのに魔物の巣窟に導かれる様な……すぐさま逃げ出したくなってきた。


「ワオ! スゴイバルクネ! ボディビルダー?」

「んん~?」


 ダイヤの声に国尾さんはそっちを見る。見下ろす。


「ほっ! なんだ! 噂の外人ちゃんじゃないの~! 鳳、手が早いなぁ! もうツバつけたのか~?」

「あ、いえ……海外では彼女の所で世話になってまして……」

「ダイヤ・フォスターデス! ヨロシクネ!」


 国尾さんはオレから肩を解くとダイヤにズイっと近づき懐から名刺を取り出す。体格も相まって名刺が小さく見える。


国尾正義(くにおまさよし)だ! 正義って書いて、まさよし、だ! ここ重要!」

「オゥ! ジャスティス?」

「そう! ジャスティス!」


 謎に意気投合した国尾さんとダイヤはハイタッチを決める。おいおい、気を付けろ。本気のタッチは骨が砕けるぞ。


「ふむ。それで、フォスター女子は鳳にラブか?」

「エ?」

「……急になんですか?」

「ラブかと聞いている!」


 腕を組んで佇む国尾さん。

 ヤバい。本当に国尾ワールドに迷い込んだみたいだ。門番にしては強敵過ぎる。


「エット……――デス」


 少し小さくて後半は聞こえなかったが、国尾さんはしっかりと耳に入っていた模様。


「そうか! それじゃしょうがないね! 鳳、ケツ拾いしたな!」


 国尾さんはオレの尻をパシッと叩くと、はっはっは! と歩いて行った。


「……な、ヤバい所だろ?」

「デース……」


 あんなのがゴロゴロいるのが、このフロアだ。軽視してもらっては困る。

 オレは身なりを軽く整えると、一呼吸置く。


「よし、行くぞ」

「OKヨ」


 そして、曇りガラスの扉をノックした。次に飛び出す魑魅魍魎は一体何なのか……






 1限目の体育の授業は最後のプール納めであった。あたしはヒカリとストレッチのペアを組み、準備運動を入念に行う。


「はぁ……」


 体育の授業でのヒカリの悪態はデフォルトの様なモノ。プールの授業は男女別で、男子はグラウンドでサッカーをやっている。


「でもプールで良かったじゃん。今日で終わりみたいだし」

「髪の毛乾かすのが大変なのよ。痛むし」

「入らずに見てれば?」

「その手は使い過ぎたせいで先生に、25m泳げるか試験するって言われててさ」

「あらら」


 ヒカリは別に運動音痴と言うわけではない。むしろ、運動神経は良い方で体育では現役の運動部に迫る活躍を見せたりする。


「そもそも、何でプールが屋外なのよ! 普通は屋内でしょ!」

「まぁ……確かに少し視線が通ってるのは気になるね」


 校舎の最上階から、このプールは微妙に見えるのだ。


「谷高さん。遂にこの時が来たわね!」

「水間さん」

「げっ」


 ストレッチを終えてヒカリの髪を巻いてあげていると話していると、水泳部の水間(みずま)さんが話しかけてきた。


「ようやく、貴女と再度相まみえるわ! 過去から続く因縁を……今こそ払拭する!」

「……あー、はいはい。そうね。うん。頑張って」

「他人事じゃないわ! 貴女の事よ!」


 ビシッと指を差す水間さん。

 聞いた話しによるとヒカリと水間さんは小学生の頃、同じスイミングスクールに通っていたらしい。その時はライバルみたいな関係で水間さんが全敗だとか。


「それ、小学の話でしょ。そっちの勝ちでいいって」


 ヒカリの両親は泳ぐスキルを身に付けさせる為にスクールに通わせたようで大会で賞を取り満足したヒカリの、興味ない! と言う一言でスクールから去った。

 以降、高校でヒカリと再会した水間さんは水泳の授業の度に、勝負だー、と言ってくる。


「そうやって譲られた勝利に何の価値があると言うの!? 尋常に勝負よ!」

「元気いっぱいですね」


 そこへ、体育教師の高木先生がやって来た。普段は眼鏡をかけている水泳部の顧問。もちろん女の先生。皆は背の順番で整列した。


「プール納めなので特に課題はありません。ただし、谷高さんはちゃんと泳げるか確認しますので先に入りなさい」

「はい」


 これで泳げなかったら色々と問題だが、ヒカリに限ってそれは無いだろう。すると、水間さんが手を上げる。


「先生! 私も一緒に泳いで良いですか!」

「いいですよ」

「ヤッター!」

「はぁ……」


 ヒカリのため息。高木先生って結構適当な先生なんだよなぁ。


「では、谷高さんと水間さんは位置について。タイムは測りますので」


 燃える水間さん。すると台を見るヒカリも、どこかやる気がにじみ出ていた。


「スイッチ入った?」

「一応ね」


 水泳部の水間さんと今まで理由をつけてサボりまくったヒカリ。

 この対戦カードにギャラリーは興味津々だ。


「――ん?」


 ふと、校舎からの視線を感じて見上げると、なんか……生徒でない誰かがこちらを見ていた。

 遠目で良くわからないが、それは昨日の夜に感じたのと同じモノ。あれは……人じゃ――


 終っていなかった。そう思って視線を外せずにいると、横からトコトコと寺生まれのT先生がソレに近づいて行き、


“破ァー!”、と手の平から発射された青白い光が、ソレを粉々に破壊した。


「…………寺生まれってあんなにスゴイのかぁ」


 と、あたしは思いつつ、見なかった事にするとしよう。


 ちなみに水泳対決はヒカリが勝った。因縁はまだまだ続くらしい。

元ネタが気になる人は「寺生まれのTさん」を調べて見てね。

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