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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
9章 彼のもう一つの家族

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第122話 彼らを狙う影

「……はぁ。そう言うこと」


 リンカは猫耳を手に持ちながら事情を呑み込んだ。

 ケンゴからモンスターキャットとエンカウントしたことを聞き、ダイヤも認めた為、彼が無理やりつけさせたと言うわけではないと嘆息を吐く。


「そう! そう言うこと! だから何にもないの!」

「わかったから!」


 詰め寄るケンゴにリンカも誤解していたと反省した。その様子にケンゴはホッとする。


「……」

「リンカ、着けてミル?」

「い、いや。いい……」


 はい、とリンカは猫耳をダイヤに返す。するとダイヤは、ハイ、とリンカの頭に猫耳をのせた。その瞬間、ケンゴに衝撃が走る。


「ワオ! ベリーキュートネ!」

「え、あっ、ちょっと!」


 パシャ。そのシャッター音にリンカとダイヤはケンゴを見る。彼は、はっ、と我に還った。


「おい! 今撮ったろ!?」

「無意識に動いてしまった! リンカちゃんに猫耳とは! 尊死する!」

「訳わかんねえ事言ってんじゃねぇ!」

「リンカー、こっちにも目線チョーダイヨ」

「ダイヤさんも! 撮らないで!」

「リンカちゃん。にゃん、って言って」

「動画回してんじゃねぇ! 写真消せ!」


 ワーワーと騒ぐ三者は残った一日の体力を全部使いきり、疲れて座り込む。


「消したか……?」

「消したよ……」

「モッタイナイネー……」


 リンカは一応、証拠の隠滅を全て確認すると立ち上がり扉へ。


「リンカちゃん」

「なんだ?」


 不機嫌なリンカはケンゴの声にジト眼で振り向きつつ応じる。


「何しに来たんだったっけ?」

「……別に大した事じゃない」


 リンカとしては変に意識し過ぎたと反省。彼のことだ。間違いなど起こるハズは無いと自分の部屋に帰る事にした。


「リンカちゃん」

「今度はなんだ!?」

「猫耳、気に入ったの?」

「……」


 リンカは自分の頭に乗ったままの猫耳をむしり取ると、ケンゴへ投げて返す。

 ケンゴとダイヤは、クラウドに残ってるよな? モチロンヨ、とアイコンタクトで写真のサルベージを考えていた。


「まったく……」


 そんな事とは露知らず、リンカはドアノブを回す。扉を開けると少し生暖かい風が髪を撫でる。


「――――」


 扉の前にアステカの古代コインが落ちていた。これは彼がズボンのポケットに入れたハズ……

 その時、視界の端に何か人の影が映り、そちらへ視線を向けるが誰もいない。


「……なぁ、赤羽さんのお土産コインって持ってるか?」

「え? 確かポケットに――」


 ケンゴはそう言えば入れっぱなしだったと脱衣所へ向かい、ズボンを漁る。


「あれ? やっば。また失くしたかも」

「……そこにあるんだが」

「え?」


 リンカが指す先には古代コインが落ちていた。ケンゴはそれを拾い上げようと近づいて、


「マッテ、ニックス。リンカも、ドア閉じてネ」


 神妙なダイヤの言葉にオレとリンカは従った。古代コインを外に置き去りにして、扉を閉める。


「リンカ、今日はニックスのルームでスリープネ」

「え……?」

「ヤバい感じか?」


 ケンゴの問いにダイヤは、コクリ、と頷く。


「……でも、お母さんは?」

「Mrs.セナはコインを認識してナイカラ大丈夫ネ」


 ケンゴは心霊関係に深い感覚を持つダイヤの言葉は信用出来ると知っている。


「一気に冷えて来たな。オレの部屋は安全なのか?」

「YES」


 とんでもない土産だな。冗談抜きで赤羽さんにどこで手に入れたのかを聞かねばなるまい。


「それじゃ、さっさと寝るか。リンカちゃんはダイヤと寝るといいよ」

「そっちは?」

「オレは玄関の近くで寝るよ」

「ニックスも一緒のフトンに入るヨ」

「いや……流石にマズイだろ」


 心霊うんぬんの問題である。

 しかし、リンカが服を掴んで離さないので、ケンゴは仕方なしに布団を横にくっつけて寝ることにした。


「電気は消す?」

「消した方がイイネ」

「消すの……か」


 リンカは不安そうに言うがケンゴも、見える所にいるからと、安心させる。


「大丈夫ヨ、リンカ。明日の朝には全部終わってるネ」

「……それなら良いけど」


 リンカも納得した所で電気を消し、川の字になって三人は眠った。






 全く……ご主人には困ったものですわ。あのような代物を持ち帰るなんて――


 ソレは近くの街灯に座り、アパートの二階廊下を見ていた。

 闇を明確に映す眼と垂れ下がる尻尾。緩い首輪はこの場所に住まう証。


 寺井やローの出る幕ではありませんわ。わたくしがお相手致しましょう。


 夕と夜を分ける闇から這い出るモノを認識する者達は、ソレに抗う術を持っている。






「…………夢?」


 リンカは目を覚ますと開口一番に出た言葉がソレだった。

 ちゅんちゅん、と雀の鳴き声。そして、背後からダイヤに抱き枕の様にガッチリしがみつかれていた。


「ぬ……」


 全く動けない。助けを求めようとまだ眠ってるケンゴに手を伸ばすが、彼には微妙に届かない。


 その時、ピピピピ! とスマホのアラームが鳴り出した。社会人の起きる時間だ。

 ケンゴはのそりと身体を起こすと、近くのスマホを取り、アラームを切る。


「リンカちゃんおはよ」

「……おはよ。助けてくれ」

「これまた……ガッチリはまってるな。ダイヤ、朝だぞー。モーニング、モーニング」


 揺らしながら声をかけるとダイヤは眼を開ける。


「……ニックス。アレ? ナンデイルヨ?」

「ここはジャパンだぞ。彼女を離してやれ」


 ダイヤは寝ぼけから、リンカを見てセーブデータをダウンロード出来たようだ。

 蔓のように様に巻き付いていた腕が解かれ、二人とも起き上がる。ダイヤの寝グセが植物の様になっている。


「ダイヤ。もう大丈夫そうか?」

「ン?」

「昨日の夜の件だよ。そこまでロードは完了してねぇか」

「アー、ウン。ノープロブレムっぽいヨ」

「適当だなぁ」

「……多分、終わってる」


 と、リンカもダイヤに賛同する発言。ケンゴは意外に思いつつも扉を開けると、そこには飼い猫のジャックが座っていた。


「よう、ジャック」


 ジャックはケンゴの顔を見て気が済んだのか、とことこと歩いて行く。


「なくなってら」


 そして、アステカの古代コインはどこかに消えていた。

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