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第11話 エロミミック

『けけけ。鳳ィ、お前は今日だけで俺に幾つ借りを作れば気が済むんだぁ?』

「すんません……」


 箕輪さんに連絡して、リンカにはようやく納得してもらった。


 意外な事に箕輪さんとリンカは接点がある。

 二人は昔に一度会っているのだが、幼い当時に箕輪さんのキャラクターは良い人という印象が無かった為に、ほぼ初対面みたいなものだった。


「えーっとリンカちゃん?」

「この件はヒカリから話を聞くまで保留な」


 オレとリンカは各々、箕輪さんとヒカリちゃんにLINEでメッセージを入れたが先に連絡が着いたのは意外にも箕輪さんだった。


 ヒカリちゃんに関しては保留になっており、すぐに返事がこない事からもリンカは未だに信用しきれずにいる。


「……」

「……」


 き、気まずい……

 同じ帰路の最中、いつにも増して刺々しいオーラを出すリンカの数歩後ろからオレは続く形で行軍している。

 ヒカリちゃん、早く連絡くれないかなぁ……


「おい」

「ん?」


 するとリンカがポツリと会話を始めた。


「少しは後先考えろよ。馬鹿みたいに行動ばっかすんな」

「考えてるよ」

「は?」

「ある程度は大丈夫な算段があるんだ。祭りの時は顔を隠してたし、今回も駅だったから監視カメラも人の目も多かったしさ。最悪殴られても警察が捕まえてくれ――」


 と、リンカは止まって振り返る。思わずオレも止まると彼女はつかつかと歩いて、ぽす、とボディを殴ってきた。


「そういう事じゃない。ばか」


 目を伏せたままそう言うリンカは再び歩き出す。

 全然痛くはなかったが、何を言いたいのか解る拳だった。オレは何て返していいか解らず、こめかみをぽりぽりと掻き、にその後に続く。


 昔はオレの行動を深く考えずに一緒に一喜一憂してくれたリンカだったが、自分なりの考えでちゃんと怒ってくれる事に何だか嬉しくなった。

 しかし、この不機嫌下での鮫島家で晩御飯をいただく算段は延期にした方が良さそうだ。


「夜はウチで食べて行くんだろ?」


 前を歩きながらリンカが言う。オレはそんな彼女に笑って返す。


「リンカちゃんは優しいなぁ」

「……うっさい。ばか」


 それからアパートに着くまで会話はなかったが、リンカの不機嫌も解消されたのか、気まずい空気は不思議と消えていた。


「取りあえず着替えてくるよ」

「連絡するまで来んなよ」

「おっけー」


 互いの部屋の前で各々準備をする事にして別れる。

 突如、リンカの部屋の扉が開いた。


「リンちゃ~ん! ごめーん! お母さん、寝ててご飯なにも作ってなーい!」


 飛び出してきたのは下着姿のセナさんだった。


「!? ちょっと! お母さん!! 酒くさ?!」


 抱きついてくるセナさんは酔っているのか半裸な自分の姿を気にしていない。

 リンカは何とかエロミミックを部屋へ押し返す。ああん、反抗期ぃ、と言うセナさんの声が更にエロい。

 するとオレの視線に気づいたリンカはつかつかと歩いてくると、


「見てんじゃねぇよ!」


 と、目突きを食らわせ部屋に入って行った。

 オレは、目がぁ……目がぁ……と、某天空の城のラストみたいな事をリアルに言って自分の部屋の前で悶えた。






 ヒカリは湯船に浸かりながら防水したスマホを見つめたまま、今日の事を思い返していた。


「……」


“ヒカリ、大丈夫?”


 親友からのメッセージ。ケンゴから事情の聞いたリンカの気遣いであると理解できる。


「大丈夫……じゃないなぁ」


 メッセージには既読が着いている。すぐ返さないと余計に心配をかけてしまうだろう。しかし、


“すごく綺麗になってたからさ”


「~~~~」


 何とも言えない気持ちに、ばしゃばしゃと湯船を叩く。しかし、スマホに映る親友のメッセージを見るとどうしようもない気持ちが強くなるのだ。


「……すごい破壊力だ……これ」


 可愛いと言われ続け、雑誌の売り上げからも世間でも間違いでないと証明されている。


 ヒカリちゃんは可愛いね。


 これが当然のフレーズ。何て事のない称賛の言葉――


「あんなに、ストレートな物言いだったんだ。ケン兄って」


 我ながら単純すぎる。だが、単純だからこそ、この初恋をどうすれば良いのか解らない。


「リンは……ずっと気づいてたんだなぁ」


“ヒカリ……あたし、馬鹿だ……おにいちゃんに何も言えなかった……”


 ケンゴが発った日の夜にリンカが誰よりも最初にヒカリに泣きついて来た。

 正直、ヒカリはその時のリンカの気持ちはよく解らなかったが、今は――


「これが届かないってなると……確かにキツイなぁ」


 何があっても親友の恋を応援すると決めた。そう、何があっても……


『ヒカリ、大丈夫?』

「大丈夫だよー、ママ」


 長湯に心配した母の声が脱衣室から聞こえてくる。


 駅の一件について、箕輪から一通りの連絡を受けた故の心配だった。


 ヒカリの心にあるのは全く別の事だ。勘違いさせて周囲に余計な心配をかけるわけにはいかない。

 この気持ちはわたしの中に仕舞っておこう。


「こっちは大丈夫。明日、学校でね、っと」


 と、ヒカリは返信を送ると湯船から上がった。

恋は病

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