コント「まだ温かい」
後輩「先輩! まだ温かいです!」
先輩「え? いきなり何?」
後輩「10月だというのに、まだこんなに温かいですね」
先輩「ああ、そういうこと?」
後輩「まだ夏はそう遠くへは行ってないですね」
先輩「いや、そういうのいいから。もう容疑者の家に着くんだよ。ちゃんとやって」
後輩「わかりました。あ、ここですね、容疑者である田中の家は」
先輩「何が潜んでいるかわからないから、気を引き締めて」
後輩「わかっています」
後輩、家のインターホンを鳴らす。
後輩「反応ないですね」
もう一度鳴らす。
後輩「いないんでしょうか」
先輩「とりあえず呼びかけ続けて」
後輩「わかりました。(ドアを叩きながら)おい! 開けろ! いるのはわかっているんだ!」
先輩「逃げられたのかもな」
後輩「いや、きっと居留守ですよ。嘘を吐くなんて許せません」
先輩「君らしいな」
後輩「貴様は完全に包囲されている!」
先輩「いや、急に何言ってんの?」
後輩「大人しく投降しなさい! 見えないのか、この大量の警官が!」
先輩「誰にも見えないよ。すぐばれる嘘つくの止めて」
後輩「はっ! 先輩、鍵が開いていますよ」
先輩「不用心な奴だな。それとも罠か?」
後輩「入ってみます?」
先輩「そうだな。他に手掛かりもないし、ここは罠を承知で入ろうか」
後輩「わかりました。お邪魔しまーす」
先輩「礼儀正しいな。さっきの威勢はどうした?」
後輩「脱いだ靴はきちんと揃えてっと」
先輩「育ちもいいな。まぁ、いいに越したことないが」
後輩「あっ! 見てください先輩、この靴」
先輩「何の変哲もない靴のようだが」
後輩「まだかすかに温かいです」
先輩「地味に気持ち悪いことを言うな」
後輩「ということは、まだそう遠くへは……?」
先輩「いや逆だろうな。靴が温かいということはさっきまで履いていたということだ。つまり、田中はまだ中にいる」
後輩「なるほど。なら徹底的に探してみましょう」
先輩「どこかに隠れているかもしれない。見逃すなよ」
後輩「はい」
各々、背を向けて探り始める。
後輩「先輩、ちょっとこっち来てください」
先輩「どうした?」
後輩「(机を指差し)見てください、先輩。作りかけのカップ麺があります」
先輩「本当だな。……まだ温かい。ということは、そう遠くへは行ってないな」
後輩「(蓋をめくる)お湯を淹れてから、ちょうど三分ってところでしょうか」
先輩「すごいな。そんなことまでわかるのか」
後輩「ええ、まぁなんとなく。出来具合で」
先輩「あ、そう。まぁいいや。とりあえずもうちょっと探してみるか」
先輩、後輩に背を向けて辺りを探り出す。
間もなくすると、後方から音が聞こえて振り返った。
後輩「(ラーメンをすする音)」
先輩「ねぇねぇ」
後輩「(引き続きラーメンをすする音)」
先輩「ズルズルーじゃないよ。何してんの?」
後輩「伸びたらまずいかなと思って」
先輩「何が問題なの?」
後輩「味の問題です」
先輩「まずいってそっち? いや、大事な痕跡なんだから触らないで」
後輩「わかりました。ごちそうさまです」
先輩「あ、完食したんだ」
後輩「はい。食べ物は残すなって親に厳しくしつけられたんで」
先輩「本当に育ちいいんだな」
後輩「ありがとうございます。あっ! 見てください先輩」
先輩「今度は何?」
後輩「田中の奴。どうやら、直前までテレビを見ていたらしいです」
先輩「どうしてわかったの?」
後輩「電源を切ったばかりの時に発するかすかな静電気を感じます」
先輩「さっきからすごいところばかり気づくな」
後輩「親に厳しくしつけられたんで」
先輩「どういう教育方針?」
後輩「見てください。(DVDをデッキから取り出しながら)奴どうやらDVDを見ていたそうです」
先輩「なんでわかるのさ」
後輩「まだ温かいです。おそらくそう遠くへ行ってないと思います」
先輩「もういいよそれ。十分わかったから」
後輩「タイトルは『あぶない団地妻~淫猥な昼下がり~』です」
先輩「随分とチープなタイトルだな」
後輩「しかしおかしいですね」
先輩「何が」
後輩「田中は確か、無類のJK好きと聞いています」
先輩「誰から聞いたの、そんなこと」
後輩「臭います」
先輩「考えすぎじゃない?」
後輩「具体的には、イカ臭いです」
先輩「それは、うん。だけど一旦、置いておこう」
後輩「先輩! わかりました!」
先輩「なに? 何が?」
後輩「もしかしたらこれは偽装DVDかもしれません。田中はこれで、誰かから何らかの指示を仰いでいた可能性があります」
先輩「そんなことあるか?」
後輩「見てみましょう」
先輩「うーん、しかしなぁ」
後輩「先輩! 犯罪者を捕まえて市民を守る。それが僕らの仕事でしょう!」
先輩「ならAV見てる場合じゃない気もするが」
後輩「でも重要な証拠かもしれませんよ」
先輩「しかしなぁ……」
後輩「何が不満なんです?」
先輩「AVの可能性も残っているわけでしょ? 団地妻は趣味じゃないんだよなぁ」
後輩「そんなのわからないじゃないですか。見てみれば意外にハマるかもしれませんよ」
先輩「いや、お前それは……一理あるな!」
こうして事件の捜査は難航していくのであった。
もしかしたら最近のテレビは静電気感じられないかもしれませんね。