第四話 ありがとう
魔術師アンドレを倒したが、喜んでいる時間はない。
父が自分の身代わりになってアンドレの放った氷塊を受けたのだ。軽傷なはずがない。
急いで父の倒れている場所へむかう。
「父さん!大丈夫!?しっかりして!」
これは酷い。手に、足に、腹に、至る所に鋭い氷塊が刺さっている。
出血も、半端ではない。
しかし、一番酷いのは、胸に刺さった大きな氷塊だ。確実に、内臓を貫いている。
「…ルルか。
クッ、ウガッ」
父がうめき声をあげる。
「喋っちゃダメだよ!待ってて、今救急箱とってくるから!」
「いや…必要ない。どうせこの出血じゃ、もう助からない…。」
「そんなこと言わないでよ!
父さんが死んだら、俺、どうしたらいいんだよ!」
「ルル。人はみんな、いつか死ぬものなんだよ。
父さんはそれが、今日だっただけさ。」
「でも、こんな死に方、こんなのないよ!」
ルルは自暴自棄になって、自分でも何言ってるのかわからなかった。
「ルル、落ち着いて聞くんだ。ここからずっと北に行くと、中央都市ローマがある。
そこに、革命軍の団長をしているナポレオンという、信頼できる男がいる。
そいつなら、きっとルルを守ってくれるだろう。」
「父さん…。俺は父さんがいいよ!
生まれてからずっと一緒だったじゃないか!
これからもずっと一緒にいようよ!」
ルルは泣き崩れる。
「父さんは、もう…死んでしまうんだぞ。」
「死ぬとか言わないでよ!
俺は父さんにもっといろんなこと教えてもらいたい!
一緒に読みたい本もたくさんある!
だから…死なないでよ。」
父は、その言葉を聞いて辛そうな顔をしながらもにっこり笑って、最後の言葉を告げた。
「ルル。ありがとう。」
父は、力尽きた。
もう思い残す事はないと、幸福そうな顔をして。