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狂い始めた歯車

「どうしたのだ、トリーシャ? 今のは前回、お前が仕掛けた手ではないか」

 アンジェがアレーニェと出会って1週間後、とうとうJJがチェスの席で詰問してきた。

「えっ? そう……だったかしら」

「忘れたと言うのか? 頭脳明晰なお前らしくない。つい3日、いや、4日前のことを覚えておらんとは。いや、と言うよりも……」

 フィーが倒した白いキングをつかみ、JJはじろ、と彼女の顔を疑い深そうな目で見つめて来た。

「まるで初めてこの展開を見た、と言うような打ち筋だったぞ。いつもの機知に富んだお前ならば、見抜いて仕掛けをかわすなり何なりできたであろうに」

「す……すみません、おじいさま。あたし、ちょっと、考え事をしていて」

「考え事だと? それは余との勝負と会話をないがしろにするほどのことか?」

「……いえ……」

「ふん、まあ良い。……興が冷めてしまったわい。今日はもう下がれ」

「……は、はい」


「いい加減にしてよ、アンジェ!」

 離れに戻ったところで、フィーはアンジェを怒鳴り付けた。

「やめてよ、フィー。あんまり大声出さないでよ。こんなことでバレたら、元も子も……」

「もう寸前よ! 今日なんかおじいさまに怪しまれたのよ!? 何とかごまかしたけど、これ以上こんなのが続いたら、全部おしまいになっちゃうわ!」

「……そ、そうね。どうにか、しなきゃね」

 それだけ返し、アンジェはベッドの上で膝を抱えてしまった。そのまま動かないアンジェをにらみ、フィーはまた声を荒げる。

「あんた、どうにかする気あんの!?」

「……」

「ねえ?」

「……」

「ねえってば!」

 何度も苛立たしげに声を掛けられ、アンジェはようやく顔を上げた。

「……とりあえず、いっこずつ、片付けない?」

「いっこずつ?」

「あたしたちの問題。あたしたちの周りには、問題が多すぎるわ」

「そうね。一番の問題は、あんたがおかしくなってるってことよね」

「違う」

 アンジェはベッドを離れ、フィーの肩をつかんだ。

「ちょっと、アンジェ? 何よ?」

「元々無茶だったのよ。2人で1人を演じるだなんて。16年もそんな無茶しなきゃならなくなったのは、誰のせいなのよ?」

「……あんた、まさか」

「そのまさかよ。でも」

 アンジェは爛々(らんらん)と目を光らせ、フィーに提案した。

「おじいさまから教えられたわよね――脅威は小勢から潰せ、って」




 2日後、アンジェとフィーは密かにアジトを抜け出し、ルシフェルを狙ってO州とC州の境に向かった。

「この辺りかしらね」

「いるとしたら、だけど」

 二人の計画はこうだった。まずルシフェルを「トリーシャ1人」で討ち、JJの信頼を得る。その上で寝首を掻き、自分たちが組織のトップに就く、と言うものである。自分たちに相当都合良く展開が動くことを期待した、杜撰で幼稚な計画ではあったが、今の二人にはこれ以上の案を思い付くことも、これ以外の案にすがることもできなかった。

「確かなの?」

「組織の情報よ? 間違いなんてそうそう……」

 幼く、アジトの外に出た経験すら無い、世間知らずの彼女たちではあったが、それでも運は人一倍に強かったらしい。彼女たちの前に、その男は現れた。

「……」

 男の目はせわしなく、まるで彼女たちの全身をぬらぬらと舐め回すように動いている。

「あなた……シャタリーヌ? ルシフェル・ブラン・シャタリーヌかしら?」

 アンジェが尋ねたが、相手は応じない。

「答えなさいよ」

 フィーがしびれを切らし、拳銃を向けたところで、男はようやく口を開いた。

「よお、お姉ちゃん方。こんなところで商売か? 精が出るねぇ、げひゃひゃひゃひゃ」

 その口からは甘ったるく、鼻腔にまとわりつくような、気持ちの悪い植物臭が漂って来る。どうやらマリファナの類を、大量に吸っているようだった。

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