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妄執と情熱と

 フィーとアンジェは組織の者たちに知られぬようこっそりとルシフェルのことを探り、そして程無く、「ルシフェルがアジトの付近をうろついているらしい」と言う情報を、組織がつかんでいることを知った。

「だからおじいさまは、迷ったってわけね」

「今更ノコノコと戻って来るくらいだから、相手なりに改心したんじゃないか、……って考えたのね、多分」

「でもそれ、相当甘くて都合いい考えよね」

 アンジェの言葉に、フィーはクスクスと笑って返す。

「ええ、そうよね。おじいさまだって有り得ないと思ったはずよ。だから否定した。でも可能性は1%でもあるんだったら、潰した方がいい。そう思うでしょ、アンジェ?」

「そりゃ、ね」


 どちらからともなくルシフェル暗殺を仄めかした二人だったが、とは言えまだ青臭さの残る16歳である。戦闘訓練では抜群の成績を叩き出していたものの、実際の戦闘や、ましてや殺人の経験など、まだ一度も無かった。そのため実際にルシフェルの元へ向かおうとするだけの覚悟ができず、決意から数日が経っても、二人は何の行動も起こせずにいた。

(スコアは満点。冷静に、落ち着いて引金を引けば、あたしが仕留められない相手なんかいやしない。……『その瞬間』に冷静でいられれば、だけどね)

 その日も寸分違わず的の中央に全弾を命中させたところで、アンジェは訓練を切り上げた。

(……あーあ、頭ん中グチャグチャって感じ。今日はもうこれ以上、ベストを維持できそうにないわね。帰りましょ)

 半ば放り投げるように拳銃を棚に戻し、訓練場の出口に向かいかけたところで――。

「あ、あのっ」

 白人とインディオのハーフらしき青年に声をかけられ、アンジェはきょとんとする。

「何かしら?」

「あの、えっと、そのですね、お嬢様」

「トリーシャでいいわよ」

 やんわり許可を与え、アンジェはにこっと会釈してやる。

「あたしに何か用かしら?」

「え、えっと、……トリーシャ、さん、その、いつも訓練、ご一緒してます」

「そうね。何度か顔、見た覚えあるわ。えっと……アレーニェ、だったかしら」

 名前を呼ばれ、彼は顔を紅潮させた。

「はっ、はい! あの、それでその、いつもすごいなって思ってて」

「どーも。それじゃ」

 半ば邪険に扱い、話を切り上げようとしたが、アレーニェは食い下がって来る。

「あの、この後、お時間ありますか?」

「……あるけど?」

 そう答えた途端、アレーニェは心底嬉しそうな顔をした。

「よ、良ければぼっ、僕と、お、お、おちっ、お茶でも、ど、どう、ですか!? ……なん、……て、……は、はは」

「ぅえ? あっ、あの、……あたしと?」

 思いも寄らないその提案に、ついさっきまで悶々と考えていたことは、すべてアンジェの心の中から吹き飛んでしまった。


 6時間後――。

「遅かったわね」

 日が暮れる頃になってようやく戻って来たアンジェに、フィーが声をかけたが、彼女はすっかり上の空になっていた。

「あ……うん……」

「今日は何があったの?」

「えっ!? な、何がって?」

 顔を真っ赤にするアンジェに、フィーは呆れた目を向ける。

「何がじゃないわよ。いつもの報告してちょうだいって言ってんのよ」

「あっ、そ、そうね」

 が、口を開くなり、アンジェはめちゃくちゃな説明を始めた。

「え、えーと、今日はね、マクファーソンさんが射撃を教わって、午後は射撃場で乗馬して」

「なんでマクファーソンさんが射撃の講義受けてんのよ。化学の先生じゃない。で、射撃場で乗馬って何よ? 撃ち殺されたいの、あんた?」

「あっ、えーと、射撃場じゃなくてね、その」


 結局、この日の説明は支離滅裂で理解不能なものとなってしまい――そしてこの日以降、二人の同期と連携は乱れて行った。そうなれば当然、「一人のトリーシャ」としての行動にも矛盾が生まれることとなり、次第に彼女の様子を怪しむ者が現れ始めた。

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