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天使と悪魔

 JJが合衆国の地に足を踏み入れた時、手下はわずか――腹心のジュリウス・アルジャンと、ダビッド・ヴェルヌ。パトロンであり、アメリカへの逃走ルートを用意したアルテュール・リゴーニ。そして下僕のアンリ=ルイ・ギルマンと、エイミッシュ・マイヨンの5人しか残っていなかった。

 そして彼の家族も元々、子供がわずかに2人――兄のルシフェル・ブラン・シャタリーヌと、妹のミカエル・マルーン・シャタリーヌだけしかおらず、このまま何事も起きなければきっと、彼の野望は西部の土の下に埋もれるばかりだっただろう。


 ところがやはり、JJには未曾有の強運が取り憑いていたらしい。彼が渡米した翌年から、合衆国南北の情勢が悪化。瞬く間に合衆国を二分する内戦、南北戦争が勃発したのである。

 これに乗じ、JJは一挙に人員と資金を獲得した。北部の海上封鎖の間隙を突いて闇取引を繰り返し、北部から武器を横流しし、さらには南部の大物代議士をたばかり、総資産価値300万ドル強に及ぶ、強大な地下帝国を築き上げたのである。

 そして5人の部下も少なからず、その恩恵を受けることとなった。アルテュールは組織への出資した以上の莫大な収益を獲得し、手柄を立てたジュリウスたちもそれぞれ、大勢の部下を従える部隊長の地位を与えられた。さらに息子のルシフェルもまた、この頃から頭角を現し始め、戦乱の最中にある合衆国各地を荒らし回る、恐るべき犯罪者テロリストとなっていった。




 だがこの過程で2つ、JJにとって好まざることが起こった。1つは、そのルシフェルが自分の制御を外れ始め、不必要な略奪・殺戮を行い始めたことだった。

「いい加減にせぬか、ブラン! 戦時中といえども、警察が動いておらんわけでは無いのだぞ!?」

「知ったことじゃないさ」

 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす父親に目もくれず、ルシフェルは拳銃を磨いている。

「それより親父、M州にまた北軍が来てるらしいぜ。懲りもせずによくもまあ、ノコノコやって来るもんだ。そう思わないかい?」

「何の話だ?」

 自分の話をさえぎられ、憤るJJに、ルシフェルはやはり目を合わせず話を続ける。

「分からないの? ブン捕るチャンスだって言ってるのさ」

「そんな必要はもう無い!」

 JJは声を荒げ、息子の提案を却下した。

「既に人員も物資も十分確保してある。現状は襲撃と略奪より、練兵と拠点構築を優先すべき状態にある。むしろ、これ以上物資を集めても無駄にしかならん」

「そんなもんかねぇ」

 ルシフェルはニタニタと下品な薄ら笑いを浮かべながら、拳銃を腰のホルスターに収める。その態度に、JJはますます怒り出した。

「いいかブラン、しばらくアジトの外には出るな! これは余の……」「命令だ、って?」

 と、ルシフェルは収めたばかりの拳銃を抜き、JJの顔に向けた。

「うっ……!?」

「実の息子にまで『命令』すんのかい、親父? そんな調子だからあんた、フランスを追い出されたんだぜ?」

「な、何を言うかッ!」

「図星だからってそんなに怒んなよ。残り少ない寿命があっと言う間に燃え尽きるぜ」

「貴様……!」

「話は終わりだろ? じゃあな」

 ルシフェルはくるんと拳銃を戻し、JJの前から去り――どうやらこの時点で既に、自身が疎まれていることを察していたらしく――集めた資金の一部を盗み、行方をくらましてしまったのである。

 親である自分に対して憎たらしい態度を執るだけに留まらず、組織にとって害をなすルシフェルを、JJが許すはずは無かった。JJはダビッドに命令を下し、ルシフェルの討伐に向かわせた。




 そしてもう一つの誤算は、地位を引き上げ、取り立てたばかりのマイヨンが、ミカエルと共に姿を消したことだった。

「なんたることだ! 折角余が目をかけてやったものを……!」

 憤慨し、禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤に染めるJJの前に、ジュリウスがかしずく。

「閣下。私が娘御とマイヨンを連れ戻して参ります」

「……」

 申し出たジュリウスを半ばにらみつけるように見つめて、JJはこう返した。

「娘は、……連れ戻せ。マイヨンは殺せ」

「承知」


 ジュリウスがミカエルとマイヨンの行方を探り当てるまでに、実に1年近くを費やすこととなった。そしてその結果、JJにとって想定外の事態が、新たに1つ起こることとなった。

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