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新世界へ!

「むぐ、もぐ……。一体何で、兄貴を追い出すようなことしたんスか?」

 ベーコンをかじりながら尋ねたロバートに、エミルはクスクス笑いながら答える。

「気ままな旅に一つ、スパイスが欲しくてね」

「スパイス?」

「本当に単なる一人旅じゃ、退屈だもの。あたしを追いかけるような奴が一人くらいいてくれなきゃ、面白くないじゃない」

「ひっでーなぁ、姉御は」

 そう返しつつも、ロバートの目は笑っている。

「ま、それにね。ある程度の期限も作っとかなきゃ、いつまで経っても終わりそうにないってのもあるし。だから旅は、あいつがあたしに追いついたらそこでおしまい。それから先は、もう二度と旅しないって決めたわ」

「あら。そんなこと、もう決めちゃっていいの?」

 尋ねたトリーシャに、エミルは肩をすくめて返す。

「決めちゃうって言うか、きっと、決まっちゃうのよ。あいつがあたしに惚れてるってこと、十分分かってるつもりだし。あいつがあたしに追い付いたらきっと、それはもう熱烈なプロポーズをしてくれるはずよ。あたしが思わず一発オーケーしちゃうような、すっごいのをね。だからその時が、旅の終わりってわけ」

「今、素直にオーケーすりゃいいじゃないっスか。兄貴が可哀想っスよ」

 突っ込んだロバートに、エミルはパチ、とウインクする。

「残念だけど今のあいつは、あたしの好みにまだほんのちょっと届かないのよ。未熟って感じなの」

「それで彼も放浪させて、熟成させようと言うわけか」

「なかなかに手ひどいことをするね、君は」

 アーサー老人と局長も笑いながら、エミルをなじって来る。

「しかしまあ、私の目から見ても、アデルには今ひとつ貫禄が足りていないと感じることも事実だ。この旅を通じて、ちょっとくらいは成長してもらいたいものだ。と言うわけで、私も君の行動を評価する。恐らくここにいる皆もそうだろう」

「うむ。率直に言って今の赤毛君では、君には到底釣り合わん。君を射止めたいと彼が切に願っているのならば、是非とも荒野の風と砂で、彼自身の器を磨いてもらわねばな」

「俺も同感っス。ぶっちゃけ今の兄貴と姉御って、お姉ちゃんと弟って感じっスもん。似合いのカップルって感じじゃ……」

 同調しかけたロバートの鼻を、エミルがぎゅっとつまむ。

「あへっ!?」

「あんたが言う筋合い無いでしょ? アデルに輪を掛けてヒヨッコのくせに。あたしやアデルのことをあれこれ言う前に、まず自分の相手探しなさいよ」

「……はひ。ふんまへん」

 ロバートから手を離したところで、エミルは食卓を離れた。

「じゃ、もう行くわね。後片付けは任せちゃっていいかしら?」

「ええ、お安い御用よ。……じゃ、気を付けてね、フェアリー」

「あんたも無理しないようにね、エンジェル」

 ぱし、とトリーシャと手を交わし、エミルは彼女の家を後にした。


「さて、と」

 うまやに向かおうとして振り向いたところで、アレンが馬を引いてエミルのところへやって来た。

「エミル・ミヌー。あなたには、とても感謝しています」

「どーも」

 ぺら、と手を振って答えたが、アレンは首をぶんぶんと横に振る。

「最後まで言わせて下さい」

「……どーぞ」

「あなたがいなければ、私はきっと、何一つ成し遂げられぬまま、荒野の土となっていたでしょう。あなたが助けてくれたからこそ、私は今、ここにいる。愛するひとと家族になれた。その御恩、一生忘れません」

「はぁ」

 エミルは肩をすくめ、アレンの片眼鏡をひょい、と奪った。

「あっ」

「あたしから一つだけ忠告よ。こんな西部の真っ只中に、ヨーロピアンな片眼鏡なんて似合わないわ」

 そう言いつつ、エミルは懐から眼鏡のフレームを取り出して片眼鏡のレンズをはめ込み、アレンの顔にかけた。

「結婚祝いよ。これからはそれ付けて過ごしなさい、アレン・キャリコ」

「……ありがとう」

 頭を下げるアレンに構わず、エミルはアレンが引いてきた馬に乗った。

「じゃ、さよなら」

「あ、あの!」

 アレンが慌てて顔を上げ、ずれた眼鏡を直しながら尋ねた。

「あなたは、これからどこへ?」




 エミルは馬上でパチ、とウインクし、こう答えた。

「新しい世界よ」

これにてDETECTIVE WESTERN、完結です。

ブログ版から数えると7年にわたる長期連載となりましたが、ようやく終わりました。


次回作についてはツイッター等でお伝えした通り、まだ構想の段階です。

もし制作されたとしたら、恐らく来年の下半期くらいに連載されるかも知れません。

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