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無期限捜索命令

 翌朝――。

「エミル! どこだ、エミル!?」

 アデルが慌てた顔でサルーンを右往左往し、部屋のドアを片っ端から叩いて回っていた。

「何かね、騒々しい。察するにエミルが行方不明にでもなったかね?」

 まだ寝間着姿の局長に看破され、アデルはようやく立ち止まる。

「そ、そうなんです! あいつ、俺の部屋にこれ挟んで……」

 説明しつつ、アデルは握りしめてすっかりくしゃくしゃになってしまった手紙を差し出した。


「相棒へ

 これを読んでる頃には、あたしは既に町を出てる頃でしょうね。

 あたしもトリーシャの気楽さを見習って、もう一度、西部の荒野を気ままに旅することにしたわ。

 それじゃ、さよなら。

エミル・ミヌー」


「これって、つまりその、やっぱり」

「書いてある通りだろう」

 局長にぴしゃりと言い切られ、アデルの顔は真っ青になる。

「そ、そんなぁ……」

 そのままずるずるとへたり込んだところで、局長と同じ部屋に泊まっていたアーサー老人が一喝する。

「ぼんやりしている場合かね、情けない!」

「ふへっ?」

 呆然とした様子のアデルに、局長が続けた。

「Aの言う通りだ。アデル、君は何だ?」

「な、何って、何がです?」

「君は何者だと聞いているのだ。哀れな道化師か? 悲劇を演ずる俳優かね? そうじゃあないだろう? 君は探偵だ。私がABCを仕込んだ、一端の探偵のはずだ」

「は、はあ?」

「探偵なら『ホシ』が逃げたらどうする? 嘆いて終わりにするのか? それとも最初からいなかったんだと、とぼけてごまかすのかね?」

「……お、追いかけます! 地の果てまでも!」

「うむ」

 局長は寝癖を直しながら、厳格な口調で言い付けた。

「アデルバート・ネイサン。君に無期限の捜索任務を命ずる。捜索対象はエミル・ミヌー。彼女を発見し次第、探偵局まで安全に護送すること。それまで局に帰って来ることは厳禁とする。いいな?」

「は、……拝命いたしましたあっ!」

 アデルは慌てて立ち上がり、敬礼して答える。局長は満足げにうなずき、サルーンの入口を指差した。

「では行け!」

「了解っ!」

 アデルはバタバタと足音を立て、自室から自分のかばんと小銃を引ったくるようにして持ち出して、そのままサルーンの外へと走り去って行った。

「……さて」

 局長はふう、と一息付き、アーサー老人に振り返った。

「朝食はどうする?」

「ミズ・キャリコが用意してくれているだろう。『彼女』と一緒にな」

「だろうな。ビアンキ君、起きているかね?」

 アデルがいた部屋に声を掛けると、眠たそうな声が返って来た。

「ふあ~い」

「身支度して、キャリコ農場に向かうぞ。朝食をご馳走になろう」

「うーっス」


 10分後――3人はもう一度、キャリコ農場を訪れていた。

「おはよう、局長さん、ボールドロイドさん、それからビアンキ君」

 トリーシャに出迎えられ、局長は会釈しつつ、こう尋ねる。

「朝食をご馳走になりに来たよ。人数分あるかね?」

 この質問に、トリーシャはいたずらっぽく笑って返した。

「ええ、6人分」

「6、……って言うと」

 ロバートが指折り数え、推理を見せる。

「俺でしょ、局長でしょ、ボールドロイドさんでしょ。んで、ミズ・キャリコとイク、……じゃなかった、アレンだっけ。んで、あと一人ってアレっスよね? 姉御も勘定に入れてんスよね?」

「素晴らしい。成長したな、ビアンキ君」

 局長にほめられ、ロバートは顔を赤くする。

「へっへへ……」

 と、家の奥からそのエミルが現れる。

「流石なのはあなたもね、局長。確か、朝ご飯の約束はしてなかったはずだけど」

「したようなものだろう? あんな芝居がかった置き手紙があれば、ちょっと賢い者なら誰だって、後の展開がピンと来ると言うものさ」

「で、ピンと来なかったあいつは?」

「慌ててサルーンを出て行ったよ。今頃は町を回って、馬を買っている頃じゃあないかな」

「予想通りね。多分そのまま、あたしが撒いた偽の手がかりを元に、南へ5~60マイルくらいすっ飛んで行くでしょうね」

「残念な男だ。君に追い付くのは、いったいいつになることやら」

「20世紀になるまでには見付けられるといいわね。……さ、ご飯冷めちゃうわ。早く食べましょ」

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