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フェアリーとエンジェル(Fairy and Angel)

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 組織のあった廃村が火の手に包まれ、JJの屋敷が音を立てて崩れるのを背中越しに聞き付けながら、二人は肩を貸し合う形で、よろよろとその場を後にした。

「あんた……大丈夫……?」

「こっちの……セリフよ……」

 たった2人で300人以上の手勢がいた組織を壊滅させると言う、超人的な働きを見せたアンジェとフィーだったが、それでも多勢に無勢だったらしい。二人は全身傷だらけになり、どうにか生き残っていた馬に乗って、荒野へと出た。

「撃たれた?」

「かすり傷。あんたは?」

「あたしも。でも痛い」

「そうね。町、どこ行く?」

「50キロ西、……は、行っちゃダメよ。確かアンリ=ルイが基地作ってた」

「分かってる。反対方向ね」

「でも町は、80キロも向こうよ」

「大丈夫。……大丈夫、きっと」

 切れ切れに言葉を交わしていたが、やがて二人は力尽き、途中で見付けた小屋に転がり込んだ。

「傷の手当て……しなきゃ……」

「……うん……あたし……大丈夫だから……あんたから……」

 フィーが促したが、アンジェは答えず、フィーのシャツをまくった。

「……やっぱり……!」

 フィーの肩には大穴が空いており、そこからどくどくと、血が噴き出していた。

「……大丈夫……どうってこと……無いわ……」

「バカ、放っといたら死んじゃうわよ!」

 慌ててフィーの止血を施そうとしたが――アンジェも既に限界に達していたらしく、途中で強い疲労感に襲われ、包帯代わりのシャツの切れ端を握ったまま、意識が途切れてしまった。


「……!」

 ふっと目を覚まし、アンジェは飛び起きた。

「フィー? どこ?」

 辺りを見回したが、フィーの姿はどこにも無い。

「フィー! あんな傷でうろうろしてたら、マジに死んじゃうわよ! どこにいるのよ?」

 小屋を飛び出し、アンジェは馬がいなくなっていることに気付いた。そして馬がいたところに、おびただしい血が残っていたことにも。

「……フィー……!?」




「……ってところまでが、あたしとあんたが一緒にいた思い出ね」

 トリーシャの話が終わってもなお、エミルは真っ青な顔でうずくまっていたが、いつの間にか彼女は自分の肩をつかんでいた。

「……そうね。そこを大ケガしてたのよね、あんた」

「でも……でも……思い出せない……」

 エミルはもう一方の手をこめかみに当て、震えている。

「あんたは……あんたは……誰?」

「あんたがあたしに言ってくれたことよ」

 トリーシャはエミルの頭を優しく抱きしめ、こう続けた。

「あたしもあんたも、妖精(Fairy)みたいに木のうろから産まれたのよ。それか、天使(Angel)みたいに神様が遣わしたってことでもいいんだし。過去のことなんてもう、思い出す必要なんか無いわ」

「……でも……」

 顔を上げたエミルに、トリーシャはにこ、と微笑みかけた。

「だから――はじめまして。あたしはトリーシャ・“エンジェル”・キャリコ。あなたのお名前は?」

「……エミル。エミル・“フェアリー”・ミヌー、よ」

「よろしくね。あたしに良く似た、さっきまで名前も知らなかった人」

「……うん。……よろしく、トリーシャ」

「ってことで、……いいでしょ?」

 エミルから離れ、もう一度にこっと微笑んだトリーシャに、エミルは小さくうなずいて返した。

「そう、……そうね。あたしたちの過去はもう、どこにも無いってことで、いいのよね」

「そう言うことよ。誰だって、人の『本当の』過去のことなんか分からない。今話したことだって誰も――あたし本人でさえも――証明することなんか、永遠にできやしないわ。あたしたちの手に、いま確実にあるのは、未来だけ。まっさらな、新しい世界だけよ。

 誰も知らない新しい世界で、あたしたちはあたしたちの人生を始めるのよ」

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