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袂別

 自分たちの父親の、その醜い素顔を知ってしまった二人は、重い足取りでアジトへの帰路に就いていた。

「このまま帰ったらまずいわよね。まだ2人だってバラすわけには行かないもの」

「そうね……。まずあたしが先に帰るわ。いい?」

「ええ。夜になったら玄関開けてね」

「分かってる。……ねえ、フィー。この16年、言わないようにしてたけど、でも、どうしても今、聞きたい」

 アンジェはフィーの手をぐっと握り、不安そうな目で見つめる。

「あんたは、どっちが、誰の子だと思う?」

「分かんないわよ、そんなの。どうだっていいことだし」

 フィーは手を優しく握り返し、アンジェに向き直る。

「そもそもの話だけど、あんた、あのろくでなしが本当のこと言ってたと思う? あんなハッパ臭い奴の話、真に受けるわけ?」

「……そうね。普通に考えたら嘘か妄想よね、あんなの」

「あのクズはありもしない、とんでもない大ボラを吹いてあんたを油断させ、襲おうとした。あの晩のことは、それが全てよ」

「うん……」

 しゅんとなるアンジェの肩を、フィーは優しく抱きしめる。

「ね、こうしましょうよ。あたしもあんたも、あのろくでなしの子供じゃなく、妖精(Fée)みたいに木のうろから産まれたってことにするのよ。それか、天使(Ange)みたいに神様が遣わしたってことでも、……ね?」

「マジに言ってんの? それこそ妄想じゃないの」

「いいじゃない。あんた、組織にいる奴が誰から産まれたか、全員知ってるわけ?」

「……知らないけど」

「でしょ? 他人が誰からどんな風にして産まれたかだなんて、見て分かんないのよ。じゃあもう適当ブッこいてごまかせばいいじゃない。だからもう、この話はおしまい。いいわよね?」

「分かった。とりあえず、……今は、考えない」


 フィーといったん別れ、アンジェはアジトに戻った。と、アジトの中央、元は町の広場であったところに、何かが立っていることに気付く。

「……!」

 とっさに近寄り、アンジェはそれが、この16年間自分とフィーを育ててくれた義父、ジュリウスを吊るした絞首台であることを理解した。

「な……んで……!?」

「戻ったな、トリーシャ」

 と、絞首台を挟んで反対側からJJが、ジュリウスの実の息子であるトリスタンを伴って現れた。

「一体どこへ行っていたのだ?」

「あ……あたしの、ことよりっ」

 アンジェは風に揺られているジュリウスを指差し、ほとんど絶叫に近い声で尋ねる。

「どうして、ジュリウスおじさまが吊るされているのよ!?」

「責任を取ってもらったのだ。お前が逃げた罪を問うたのだが、皆目見当も付かんと、とぼけたことを抜かしたものでな。監督不行き届きもはなはだしい。であるが故、その命を以て償ってもらった。

 さあ、トリーシャ。何日も講義を怠っているだろう? すぐに続きを……」

「ふ……ふざけないでッ!」

 アンジェは拳銃を抜き、JJに向けた。

「あたした、……あたしは、あたしの意志で外出しただけよ! 殺すことないじゃない!」

「それが監督不行き届きだと言っておるのだ。ジュリウスにはお前の管理を命じていた。こうして逃げ出す隙があった以上、その責務を全うできておらんと言うことだ。であれば生きる資格など無い」

「なんですって……!?」

 JJの、あまりにも心無い、自分とジュリウスを見下した物言いに、アンジェは激昂する。

「『管理』って何よ!? あたしを家畜扱いするの!?」

「なんだ? 自覚しておらんかったのか?」

 JJは呆れた目を、アンジェに向けた。

「お前は籠の鳥、単なる牛馬と同列に過ぎん身だ。ちょっと血統書が付いていると言うだけのな。地位を渡す、跡を継がせると言う話も、仮に余亡き後のことだ。生きている間は、お前にはびた一文やりはせん。そんなことも分かっておらんとはな。身の程を知れ、カスめが」

 JJが杖を振り上げると同時に、どこからか手下たちが10名ほど、ぞろぞろと現れる。

「あの女に自分がただの卑しい雌豚に過ぎんことを、体で分からせてやれ」

「はっ……」

 言われるがまま、手下たちは得物を手に、アンジェへと近付いて来た。その光景を見て、アンジェはすべてのことを、瞬時に理解する。

(……結局……)

 アンジェは拳銃を構え、手下たちに発砲した。

(徹頭徹尾、最初から最後まで、何もかもこいつが――この大閣下なんて呼ばれていい気になってるクソジジイが、諸悪の根源だったのよ。こいつがいなきゃ、あたしとフィーが16年閉じ込められることだって、ジュリウスおじさまが死ぬことだって、絶対に無かった。

 こいつを殺さなきゃ、あたしにも、フィーにも、未来なんて永遠にやって来やしない!)

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