『空と海が逆転している星』
4番目に語ってくれたのは『空と海が逆転している星』と名付けた星。
その星は2番目に語った星とは真逆で、遠くから見ても一際存在感を放っている姿をしていた。星を包み込むように一面が水と思われるもので青く覆われ、所々濃い青の部分があるが、それ以外の色はない。まるで誕生したばかりの星の姿によく似ていた。いや、もしかしたら誕生したての星かもしれない。そうだとしたらとても珍しく貴重な星の瞬間を見ることができる。
船の燃料を確認。まだ暫くは大丈夫だろうと確信した後、旅人は船に念のため水対策用のコーティングをし、青が濃い部分を避けて星の中へと船を進めた。
「この星は驚きしかなかった」
数ある星の話の中で、旅人さんがそう口にしたのはこの星だけだった。それほど、この星は驚くべき光景が広がっていた。
星の中へ一歩踏み入れて直ぐ宇宙から見えた青いものはやはり水だったと知る。周囲を見回すと水中生物たちが優雅に水の中を泳いでいた。
星全体が水で構成されているのか、そう思い船を進めていると、突然船は水の中から飛び出すように外へ出た。
慌てて船を浮上させてから驚く。飛び出した先に見えたのは、青空。あちこちに雲が漂っているが、大地の代わりに青空がどこまでも続いていた。
「まさか、この水は海なのか……!?」
高度を下げ、自動運転に切り替えてから船の上に登り、上を見上げる。上空で漂う水は小さな波を作り、時折水生生物が顔を出している。信じられないが間違いなくそれは海そのものだった。
船の下を見れば、白い雲はふわふわと漂い、その下には曇り一つない青空がある。落下してしまったら星の裏側にでも出るのだろうか、そもそも降り立つ場所はあるのだろうか……そう思い、辺り一面を見回す。すると、遠くの方から鳥類のような形をした生命体がこちらへ近づいてくる。目を凝らしてみると、それは旅人さんの知っている鳥の姿ではなく、鳥と人が混ざり合った姿をしていた。
「変な奴がいるぞ!」
旅人さんはその者たちを鳥人と呼んだ。鳥人たちは旅人さんの姿を見た途端、1人、いや1羽と数えるべきか、1羽の鳥人がそう叫んだ。
「翼のない変な奴がいる!」
「お前は誰だ、どこからきた!?」
「怪しい奴め!」
声を聞きつけ、旅人さんはたちまち鳥人たちに囲まれてしまった。攻撃こそしてこなかったが、敵意を向けられ、ギロリと睨まれる。
「私は宇宙を旅して回る旅人です。旅の途中この星の珍しさに惹かれ、海を抜けてきました。あなた方に害を与えようとは思っておりません」
敵意がないこと、武器を持っていないことをアピールし、必要とあればすぐに立ち去ると伝えた。
すると、旅人さんを囲う鳥人たちの後ろから、他の者達より年老いた鳥人が現れた。おそらくこの鳥人たちを束ねる長だろう。
「旅人よ、あなたが我々に対し敵意がないことは分かった。しかし、見ての通りここは陸地というものが存在しない。旅人が今見ているものが全てだ」
「見ているものが全て……」
つまりこの星は、上を向けば一面に広がる海、下を向けば遠くまで続く青空。陸地はなく、目に見えるものだけが全てということ。
「夜がやってくる前に立ち去るがよい」
「わかりました。最後に1つ、お訊きしても宜しいでしょうか」
「答えられることであるのなら」
「あなた方は、一体どういった種族なのですか?」
「我々は空から生まれ、空で生き、やがて海へ還る。それだけだ」
旅人さんは、鳥人たちが去った後この星から出ていった。星を出て間もなく、あれほど存在感を放っていた星は瞬く間に宇宙と同じ色に染まっていった。あの鳥人の長が言っていたことはこのことだったのか……と、船の中から星を見て思った。
2番目の星とは違い、この星はよそ者が立ち入ってはいけない、そんな気がした。
上には海、下には空。空から生まれ海へ還る彼らは、今もあの星で生き続けているだろう。長く滞在はできなかったが、強い印象が残ったものから、この星を『空と海が逆転している星』と名付けたと旅人さんは言う。




