『緑あふれる星』
3番目に語ってくれたのは『緑溢れる星』と名付けた星。
その星は美しいエメラルドグリーンの色をしていた。雲があるのだろう、時折色の濃さが変わり波打っているかのように動いている。雲が流れて星の表面が少しずつ変化してもその美しさは変わらず、まるで宇宙の宝石のようだと旅人さんは思った。
星の中へ入り、船を着陸させる場所を探すため旅人さんはしばし上空から星の中の様子を見ていた。空を見上げると、星の外から見たエメラルドグリーンではなく、済んだ青い空とその空に浮かぶ真っ白な雲。全く違う見え方に首を傾げ、ふと下を見た。地上には山が一切なく、地平線まで森が広がっていた。
空と地上を交互に見続け、旅人さんは宇宙から見えたエメラルドグリーンの正体が、この遠くまで広がる森と、済んだ空、そして真っ白な雲が偶然にも重なり合ったことによって見える現象だと言う事に気づいた。
「珍しい……1つでも欠けたり、強く主張したりしたら起こらないと言うのに」
同じような条件が重なり合う星はいくつもあったが、この星のような現象を発生させた星はない。とても珍しく、貴重な光景だったと旅人さんは言った。
しばし上空から森を見続けると、1ヶ所だけ開けた場所があった。そこへ船を着陸させ、辺りの様子を見る。周囲を木々が覆われて、時折風で揺れる音と水の流れる音、そして羽虫の羽がこすれる音が聞こえてくるが、それ以外の音は聞こえない。森が深いからだろうと思ったが、それならば動物達の声などが聞こえてきても不思議ではない。
「それほどに、この森は奥深いと言うことか」
もっと奥まで探索してみよう、船を着陸させた位置を覚え、旅人さんは森の中へと足を踏み入れた。
森の中を歩き続けてどのくらい経っただろう。森の中は入り口からずっと獣道が続いており、かなり奥まで歩いたにも関わらず、やはり動物の姿は見られない。ぽつぽつと木が地面に倒れ道を塞いでいる道もあり、その木を観察するとそれは寿命が尽きたことによる倒木であって、何者かが手を入れたものではなかった。途中見つけた川の中を覗くと、魚類と思われる生物がゆらゆらと流れに逆らっていた。旅人さんに気づいても逃げる様子はなく、その場から流されないように泳ぎ続けている。
更に森の奥へと進んでいく。この獣道は一体どこまで続いているのだろうと真っ直ぐ歩き続けると、僅かだが進む先に光が見えた。出口だろうか、と旅人さんが光の方へ歩き続けると、まるで切り取られたかのように獣道が終わった。
しかし、森を抜けた先は断崖絶壁で、崖の下を覗くとまた別の森が続いている。崖の上から周辺を見回すも、遠くに森の中で見つけたものより大きな川が見えるが、その近くに集落や村は見当たらなかった。なら船を下ろしたような開けた場所はないだろうかと探すが見つからなかった。
「生まれたばかりの星ではないようだが……ここまで生命体が少ないとは。この星に降りてから驚かされることばかりだ」
どうやら、この星は住民だけでなく、動物や鳥類と言った生命体も存在せず、どこまでも続く森と昆虫や魚類と言った生命体のみが存在する星のようだ。もしかしたら成長途中の星なのかもしれない。そうであったら、これからどんな生命が生まれ、どんな星になっていくのか楽しみだと呟く。
その後、旅人さんは夜が来る前に森を抜け、船のある場所へと戻った。崖の下に広がる森の中も歩いて回りたかったが、あの断崖絶壁を身一つで降りることはできない。かといって船で向かうも着陸させる場所がない。悔しいが明日準備ができ次第、この星を離れることにした。
その晩、旅人さんは船の中ではなく、船の外で眠ることにした。空を遮るものがないこの場所は、夜空がとても綺麗で、美しく輝いていた。
翌朝、旅人さんは降り注ぐ光の柱によって起こされた。熱くはないがとても眩しく、暫く視界がぼやけていた。動けるようになってから船の整備をして浮上させる。すぐに星の外へは出ないで少しの間どこまでも続く風景を見続け
「さあ、出発しよう」
そう言い星の外へと出ていった。
どこまでも続く森の先には、一体何があったのだろう。今となっては分かるはずもないが、きっとあの星は新たな生命が誕生しても、美しい自然を維持し続けるだろう。これが『緑あふれる星』と名付けた理由だと旅人さんは言った。




