『夜が明けない星』
次に語ってくれたのは『夜が明けない星』と名付けた星。
その星を見つけたのは本当に偶然だった。船の進む航路に謎の物体があるとレーダーがとらえたものが星だった。宇宙の色と同化し、うっすらと輪郭が見える程度のせいで大きさまでは分からない。
「闇の星……というべきなのか」
旅の途中、この星のようにレーダーが反応して発見した星はいくつもあった。しかし、ここまで輪郭がはっきりとしない星は初めてだったと言う。
好奇心と言うべきか、興味本位と言うべきか、旅人さんは迂回することなく星の中へと進んでいった。
星の中に入って分かったことが2つ。
1つはこの星は闇の星ではなく、星の中は夜だった。中から空を見るときらきらと輝く星が見え、月と思われる大きな星があった。
もう1つは、どうやらこの星は真っ暗闇ではないと言うこと。地上へ近づくにつれこの星の住民が暮らしているだろう街の明かりが見えた。家々から漏れる明かりが幻想的な風景を生み出しており、宇宙から見た星とは思えないほど美しかった。
「おや、旅人さんがくるとは珍しい」
街はずれに船を着陸させ、地上へ降りてすぐ、明かりの見えた街の住民と思われる者と出会った。旅人さんと同じようなローブを身に纏い、手には明かりを灯すランプが握られていた。
「見ての通り、この星は1日中暗いまま……夜なのですよ」
「昼間と言う時間がないのですか?」
「ええ。大昔はこの星の近くに太陽の役割をしていた星があったのですが、ある日突然あのような星になってしまったと聞いております」
住民はそう言いながら、月と思われる星を指さした。
「旅人さん、宜しければ明日、同じ時間に私の家にいらしてください。もうすぐ街の明かりが消え、本当に真っ暗になってしまいます」
街の方を見ると、住民が言うようにぽつぽつと明かりが消え始めていた。このまま此処に留まり、船の明かりをつけ続ければ住民たちから不審に思われるだろうと思い、住民から家の場所を聞いて、その日は船に戻ることにした。
翌日、旅人さんはこの住民からこの星について聞かされた。
「太陽の役割をしていた星を失って以降、私たちはとても光に弱い種族となりました。睡眠ととる時以外はローブを取ることもできず、生活するに必要なだけの明かりを灯し、それ以上の明かりを受けるととても痛く、苦しいのです」
「なるほど」
住民は淡々と語っていたが、その声はどこか切なく感じた。
「先祖のように光の下で暮らしてみたい、しかしそれはかなわない願いだと分かっている。そして旅人さん、あなたは光を宿している。そうですね」
「………私がここにいると痛みますか?」
「少しばかり。苦痛と言うほどではありませんが……おそらく、大人は皆私と同じような反応をしますが、子供は近寄ることもできないかもしれません」
「そうですか……分かりました。色々と教えていただきありがとうございます」
旅人さんは住民に礼を言い、家を後にした。そのまま街の中を歩き回ることなく、まっすぐ自分の船へと戻りそのまま星を出ることにした。このまま居続ければ、きっと旅人さんの光で街の住民は苦痛を感じてしまうだろう、まだまだ見て回りたい気持ちもあったが、住民たちの暮らしを邪魔してはいけない、気持ちを抑え旅人さんは星から去って行った。
光を失い、永遠に続く夜の中少しの光を灯して暮らし、今もなお昔のような光を願う切なく悲しい星。これが『夜が明けない星』と名付けた理由だと旅人さんは言った。