『星が降る星』
最初に語ってくれたのは『星が降る星』と名付けた星。
その星は他の星に比べてとても小さく、宇宙から見るとまるで雲のかかったスノードームのようだった。星の中で小さな星がいくつもキラキラと輝いている。
「これも何かの縁、降りてみよう」
ゆっくりと近づき星の中へと入る。最初に目に入った光景はどこまでも続く草原。山や森はあるが背は低く、人為的に手を加えた場所があまりなかった。船を着陸させると、旅人さんは大地に降りて気づく。背の低い木々のおかげで、草原と空を遮るものがとても少ない。おまけに空気が澄んでいるのかとても気分が落ち着く。
「綺麗な星だ。小さいながらも環境にとても恵まれた星なのだろう」
しばし星の環境を堪能した後、旅人さんは住民たちが暮らす街や村を探すことにした。星の様子を見る限り、攻撃的な種族はいないだろうと思っているが、最初の交流で少しでも危険だと思ったらすぐに星を出よう……そう思っていた。草原を歩き続けていると、遠くの方でポツポツと小さな明かりが見えた。明かりの方へ行くと、そこには同じような形をした家がいくつも並んでいる村があった。
住民は、旅人さんと同じ人型の種族のようで、美しい金色の髪と青空を連想させるような青い瞳をしている。とても友好的で好奇心が旺盛のようで、突然現れた旅人さんに気づくとすぐに近寄っては語り掛けてきた。危害を加える様子もなく、旅人さんは住民たちにこの星の中を見て回りたい、少しの間村の近くへ船を置いて滞在させてほしいと言うと
「旅でお疲れでしょう。どうぞ私たちの村の中でゆっくりとしていってください」
「旅人さん、他の星のお話を聞かせ!」
「他の星にはどんな人がいるの?」
「旅人さんの故郷はどんなところですか?」
「船ってどうやって作っているんだ?」
質問攻めに合いながらも、旅人さんは住民たちに歓迎され村の中へ案内された。
滞在している間、旅人さんは住民たちの生活や文化に触れ、星を回っては、この星にしか生息していないであろう植物や生物を目にし、そしてこの星にあの呼び名を名付けたきっかけを体験した。
星を離れる日の夜、旅人さんが船の整備チェックをしていると、コンッと何かが船に当たった。何の音だろうと音のする方を見ると、空から何かが落ちてきてまた、コンッと音を立てて砕けた。空を見上げれば、キラキラと光る何かが放射線を描いて地上へと流れ落ちている。
「そうか、今日はこの日だったのか」
村から出てきた住民は、そう言いながら夜空を見上げていた。
「この日とは?」
「旅人さん、あなたはとても運が良い。今日は年に1度だけ空で輝く星が流星群となって降り注ぐ特別な日なのです」
空から降り注ぐ星は手の平に収まるほどの大きさで砂糖のように甘い、けれども星はとても脆く地上へ落ちてしまうと砕けてしまうため、拾おうと思ってもそう簡単に拾えるものではない。
「だからこそ、落ちる前に星を拾い食べることができると、末永く幸福が訪れるらしいのです。旅の無事を願って挑戦してみてはどうでしょう」
「そうですね。せっかくの貴重な機会なので挑戦してみようと思います」
旅人は住民と別れ、船を上空へと動かした。浮上させたままの状態で船の上へ登り、流星群を眺めた。時折星を拾うチャンスがあったが、流星のスピードは思っていたよりも速く、受け止めるよりも先に船に当たって砕けてしまった。
そろそろ出発しよう。船の中へと戻り、身に着けていたローブを脱ぐ。コロンッと何かが操縦席に落ちた。それは少し欠けていたが、住民が教えてくれた星だった。まさかローブの中へ落ちていたとは……旅人さんは星を拾い上げ
「せっかくだ、食べてみよう」
星を口にした。その星は住民が言ったように甘く、とても優しい味がしたと言う。
甘く、住民たちのように優しく、そして幸運を運ぶと言われている星が満天の空から降り注ぐ、これが『星の降る星』と名付けた理由だと旅人さんは言った。