はじまり
広く、どこまでも続くこの宇宙には、私たちが人生を使い果たしても把握しきれないほどたくさんの星がある。星の数だけ種族があり、星の数だけ文化や暮らしがあり、大きな星から小さな星、1つの種族のみが暮らしている星や多種族が共存して暮らしている星、言葉を離せない獣だけが存在する星、多種族が争いを繰り返している星など、誰も知らない星が存在している。
そんな宇宙を旅する者を、私たちは『旅人』と呼んでいる。旅人は辿り着いた星の住民と触れ合ったり、話を聞いたり、時には知識や技術を住民に伝えたりしながら星々を巡って旅をしている。
しかし、この宇宙に置いて『宇宙を旅する』という選択肢を選ぶ者は極稀だ。ほとんどの星の住民は生まれてから死ぬまで星を出ることはない。中には宇宙へ飛び立つだけの技術に到達していない、星を出ると言う考えを持たない星もある。仮に宇宙へ飛び出す技術があったとしても、他の星の環境に適応できず、故郷の星へ戻ってしまうが多い。そのため、星々の文化交流はほとんどない独立した存在となり、星と星で争い事が起こることはなく、他の星の記録もほとんどない。
『あの『旅人さん』のように、誰も知らない星を見て旅をしたい』
私は今、子供の頃から抱いていた夢を叶え、今こうして故郷の星を離れ宇宙の旅人をしている。とはいえ、まだ故郷の星から遠く離れた場所まで旅はできていない。なにせ私は、旅人になったばかりなのだから。
ではどうして私が旅人になったのか……これを説明するにはまず私が『旅人』になったきっかけ、『旅人さん』についてと、私の故郷で代々語り継がれている『旅人さんのおはなし』を語ることにしよう。
旅人さんは私が生まれるよりずっと昔、偶然私の故郷である星にやってきた。
旅人さんは大きなフードを被り、常に丈の長いローブを身に着け、人型をしているが人ではなく、生命エネルギーを人型の器に入れることで生きる種族が暮らす『光溢れる星』という星の住民だった。誰にでも優しく時に厳しい、時に好奇心が強いという印象を与える反面、旅人には少々向かない性格だった、と先祖は思ったらしく、先祖の誰かが、どうして旅をしているのか尋ねると、旅人さんはこう言ったという。
「私の星はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。故郷の住民たちは星と共に滅ぶ選択をしていたが、私はどうせ死ぬのなら宇宙へ飛び出したくさんの星を見てから死にたいと思い、故郷を捨てて飛び出してきたのです」
自分の意志で故郷を捨てた。それは、とても勇気のいる決断だっただろう。この旅人さんは性格こそ旅人には向かないかもしれないが、決断力と言う点では旅人に向いていた。だからこそ長い間宇宙を旅することができたのだろう。
旅人さんは、故郷を飛び出してからたくさんの星を巡って旅をした。なかには、旅人さんに対してとても友好的な住民が住む星もあれば、攻撃的な住民が住む星、独特な文化のせいで命を狙ってくる住民の住む星もあったらしい。
そのなかで、旅人さんが良い意味でも悪い意味でも印象に残った星の話を5つ、私たちに語ってくれた。