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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
世界に復讐する者たち

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ユーデリアの行きたいところ



「よーしよし。待っててくれていい子だよ、ホントに」


「ブルルィイイン!」



 雪に埋もれたなんとか王国を後にし……私は入り口に待たせていた、ボニーの所へと戻る。


 この子は、私がこの世界に戻ってきてから出会った子なんだけど……なぜかは知らないが、よく懐いてくれている。こうして、ずっと待っていてくれるし、背中に乗せてくれる。


 私は昔から、よく動物に好かれる。異世界であっても、その体質は変わらないのだろうか。


 この子のおかげで、移動はだいぶ楽になったというものだ。今回だって、マルゴニア王国からここまで、走りっぱなしというわけではないけど、この子がいなければこんなにスムーズに来ることはできなかった。



「じゃ、また頼むね」



 この国での用は済んだため、私はボニーに跨がる。この子だけは、世界を壊したあとでも、殺さず自由にさせようかな。


 少なくとも、私がこの子を殺すことはない……そんなことさえ、思うようになっていた。


 思えばこの子とは、私がこっちの世界に戻ってきてからの付き合いだ。私だってまだ人の心はある……自然と愛着だって、湧くものだ。



「やっぱり根性あるな、お前」


「アゥン!」



 ユーデリアも、この子のことを気に入っているのか……よく、話しかけている。それに対して、ボニーの返答は鳴き声のみ。


 だけど、両者の会話は弾む。どうやらユーデリアの言葉は通じているようで、またユーデリアもボニーの言葉がわかるらしい。獣人だから、獣の言葉もわかるんだろうか。


 ユーデリアは獣型となり、私はボニーに跨がって……並んで、歩く。



「……ところでアン」



 ユーデリアとボニーとの会話が一旦途切れ……そこへ、ユーデリアが私に話しかけてくる。


 ちなみに"アン"というのは私のことだ。ユーデリアと初めて出会ったとき……私は、本名ではなく、偽名としてアン・クーマと名乗っていた。その名残で、ユーデリアは私のことをアンと呼ぶ。



「ん、どしたの?」


「行きたい所がある」



 ユーデリアが話しかけてくることは、別に珍しいことじゃない。だけど……自発的に行きたい所がある、とは珍しい。これまでは、とにかく道を進んでいるだけだった。


 それが、明確な目的地があるとは。それも、マルゴニア王国以外に。



「行きたい所? どこそれ」


「……ボクの、故郷だ」



 ユーデリアの行きたい所……それは、ユーデリア自身の故郷だと言う。ユーデリアの故郷……つまり、氷狼が住んでいた場所?



「それって……」


「あぁ、あのバーチって男に滅ぼされた村だ」



 氷狼の村、か。どんな場所なのかは聞いたことがないが、どのみち聞いても意味のないことだ。もうその村は、ないのだから。


 聞いた話では、マルゴニア王国の人間が村にやって来て、村に火をつけた。そして、ユーデリアの目の前で家族や友人を殺し……生き残ったユーデリアだけを、奴隷とし村から連れ去った。


 いくら故郷とはいえ、もうなにも残ってない村のはずだ。なのに、行きたいのは……理由は、一つだろう。



「弔い?」


「……あぁ。みんなの命を奪った奴は、ボクがこの手で殺したよって。報告したい。それに、みんなのこと、ちゃんとお墓を作ってあげたい」



 家族を、友人を、弔うために故郷に戻る……か。


 その気持ちは、わからないでもない。お墓を立てて、きっと自分の力のなさを悔いて、謝って。私だって、叶うなら、お母さんやお父さん、あこのお墓の前で……


 ……でも、私にそんな資格なんてない。みんな、私のせいで死んだんだ。私が原因で。原因を作ったその張本人が、その面下げてお墓参りなんかに行ける?


 それに……お墓の場所なんて、わからない。叔母さんに聞いても、きっと教えてなんてくれないよ。



「そっ、か……」



 私はもう……誰にも許してもらうことなんて、できないのだろう。叔母さんはもちろん、他の親戚にも、お母さん、お父さん、あこ自身にも……



「アン?」


「いいよ……行こうよ、キミの故郷」



 謝れる機会があるなら、悔いる機会があるなら……それを、逃さないでほしいから。


 私は自然と、口走っていた。



「え……ついてきて、くれるのか?」


「? そのために、言ってくれたんじゃないの?」



 私の言葉に、驚くのはなぜかユーデリア自身だ。一緒に来てほしいから、あんな言い方をしたのではないのか。



「ぷっ……なにその顔。いいよ、ついてってあげる。同胞の亡骸を前にしたキミが、冷静でいられる保証はない……自分でもわかってるから、私についてきてほしいんでしょ?」


「……悪い」



 氷狼というのが、どれほどの数いるのかは知らない。けれど、少なくはないだろう。


 家族の、友人の無惨な現実を目の当たりにしたら、ユーデリアでも我を忘れてしまうかもしれない。そうならないための、ストッパーが必要だ。


 それが、まあ私ってことだ。



「それに、キミの故郷ってのにも興味あるしね」



 氷狼の村……か。氷狼という種族自体、この世界に戻ってくるまで聞いたことすらなかったものだ。


 いったい、どんな所にあるのか。まさか、復讐以外でわくわくすることが出来るなんて、思わなかったよ。

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