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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

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第84話 なにを犠牲にしてでも



 エリシアのような金縛り魔法……ではない、か。なぜなら、魔力を感じないからだ。よってこの金縛りの正体がなにかは知らないが……私が、動けもしないほどの力。


 それが、私の体を拘束している。



「……くっ」



 この男の、終始余裕な態度の正体がこれだとしたら……これが、この男の切り札なのだろう。原理はわからないが、言葉に出した事象を相手に強制する……そんな力が、働いている。


 現に私は、『止まってくれ』、『その拳を下ろしてくれ』と言われた。それに従う必要はないはずなのに、体が勝手にその言葉に従ったのだ。


 信じたくはないが……この男の言葉には、なにかしらの強制力がある。



「こ、の……!」


「そんな怖い顔をしないでくれ、アンズ。そもそもキミがこの惨事を引き起こしたんだ……理由を聞く権利くらい、あるだろう?」



 白々しい……こうして私の動きを止めているのだから、さっさと私を殺せばいいのに。それとも、まだ善人のふりをするつもりか。


 今思えば、初めて会ったときのあの笑顔すら……うさんくさく感じて仕方ない。この男の真意が、全然見えない。



「理由、か……人の人生狂わせておいて、私はなにも知りませんっていうその顔! その態度! 本当に、腹立たしい!」


「なにを……」


「あの(ユーデリア)のこともそう……他の世界だろうが自分の世界だろうが、あんたには等しく、周りの人間なんてゴミみたいに映ってるんでしょうね!」


「さっきから、いったいなにを……」



 不気味にすら思えるこの男だが、関係ない……


 そうだ、思い出せ……私の復讐心は、こんな男の言葉に左右される程度に柔いものだったのか? いや、断じて違う!


 どうなったっていい……この男を殺せるなら、体がどうなっても!



「お、ぉおおおお……!」



 私の復讐は、この世界に対してだ。でも、この男……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアを殺すことがら私にとって一番優先すべき事項……! この男を殺さずして、私は死ねない!


 動けない? だからなんだ……そんなの、私の甘えだ。動けないなら、動けるまで、抗い続けろ!


 目の前に、憎くて憎くて仕方ない男が、いるんだ! たとえこの腕がちぎれても、今動かないで、いつ動くんだ!



 ブチ……ブチ、ブチ……!



「あ、アンズ……? 落ち着いて、それ以上は、キミの体が……!」



 あぁ、これはヤバイな。さっきの、エリシアの金縛り魔法も力付くで破ったけど……この拘束力は、それの比ではない。体が、悲鳴をあげているのがわかる。聞こえちゃいけない音が、聞こえる。


 だけど、だとしても……引けない! 元々私は、この世界での復讐を果たすためなら、命さえ賭けても構わないと思って来たんだ! 今さらこんな痛み、屁のカッパ!



「うぎぎっ、くぅっ……ぅあぁああ!」


「アンズ、やめろ! アンズ!」



 ブチッ……!



 なにかが、千切れたような音……それと同時に、私の体の拘束が解ける。エリシアのときと同じように血を流して……あれ以上の代償を支払って、私は自由を得た。


 その足で、目の前の男、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアの胸ぐらを、掴もうと手を伸ばす。右腕の感覚が、ない。仕方ない、左腕だ。


 難なく掴み上げることに成功。片腕のみの力だが、驚くほど簡単に体を持ち上げることができた。ウィルドレッド・サラ・マルゴニアは、抵抗することなく私に体を持ち上げられ……苦しそうな表情を浮かべている。



「ぅ、くっ……アンズ、なんてバカなことを……腕を、なくしてまで……」


「私にとって、これ以上失うものなんてないんだよ」



 ウィルドレッド・サラ・マルゴニアの視線は、私の右腕に……いや、右腕があった場所に注がれている。そこに、本来あるはずの右腕はくっついていなかった。


 さっきの、なにかが千切れたような嫌な音……それは、右腕が千切れた音だったというわけだ。それほどまでに拘束力は凄まじく、またそれに抗う私の力も凄まじかった。


 結果、右腕を失った代わりに拘束から解放された。



「……っく……」



 解放されたのは、右腕が千切れたことで体全体にかかる拘束力の負荷が弱まったからなのか、右腕が千切れたことでウィルドレッド・サラ・マルゴニアが動揺し意識を途切れさせたからなのか……それはわからないが。


 ……まあ、いい。右腕を失った痛みも不思議と感じないし、残った左手でウィルドレッド・サラ・マルゴニアを掴まえた。この手の中に、この男の命がある!



「アンズ……そこまでしてボクを……」


「うん、殺したかったよ。会いたくて会いたくて、殺したくて仕方なかった」



 この気持ちに、偽りはない。だってお前さえいなければ、私は……私の世界は、壊れることはなかった。


 私は今だって、笑ってられたはずなんだ!



「……わかったよ……ただ、約束してほしい。ボクを殺したら、もうこの国……いや世界の人間には手を出さないと……」


「それは無理」



 命乞い……するでもなく、他の人間の命を優先させるなんて。死ぬ前に、少しでもいい人ぶっておこうってことか?


 でも、そのお願いは聞いてあげられない。私はお前を殺したい……でもそれと同じくらいに、この世界を壊したいと思っているのだから。


 最優先はこの男だけど、この男を殺せればすべてを諦めるわけでは、ない。



「お前を殺したら、次はグレゴとエリシアに確実にとどめを刺す。側近のあの男は、ユーデリアの獲物だから……その次は、この国の人間全員。それが終わったら、また近くの村や町を壊していく。それから……」


「キミは、ボクが憎いんだろう? なら、ボクを殺したらもう終わりに……」


「うん、憎いよ。それと同じくらいにこの世界も憎い。……じゃないと、ここに来るまでにあんなに騒ぎは起こさない」



 この男だけが目当てなら、わざわざ自ら足を止め、寄り道をする必要はない。情報だけを集めて、破壊なんてせずに最低限の道のりで、この国へ来たことだろう。


 最低限の道を通ってこなかったのは、私の復讐対象がこの世界だからだ。その私に、自分の命と引き換えに手を引け? あり得ないだろう、そんな要求。



「世界が……憎い?」


「じゃあね。この世界に召喚してくれたこと、心の底から恨んでるよ」



 右腕……はないから、頭、いや額に、力を集中させていく。こんな柔男(やわおとこ)、渾身の頭突きで一発で殺してやる。


 頭を振りかぶり、渾身の力をもって、この額を思い切りぶつける……それで、済むはずだった。



「そうか……キミの世界で、キミに不幸が起きたんだね?」


「……!」



 額が激突する直前に、動きが止まる。



「ボクを憎むだけでなく、この世界を憎んでいる。一度元の世界に帰ったはずのキミが、わざわざこっちの世界に戻ってきてまで破壊行為に及ぶほどに憎しみを募らせている。キミをこの世界に召喚したのはボク、キミをこの世界の『勇者』に選んだのはこの世界。……つまり、キミがこっちの世界にいる間、向こうの世界でキミの身の回りでなにかがあった。これほどの憎しみが生まれるということは……身内関係かな。身内になにがあった。それがなにかまではわからないが……キミがこの世界にいる間に起こった、ではなくこの世界に来たせいで起こった、の方が正しいのかもしれない。その結果、キミをこの世界に召喚したボクと、キミを選んだ世界が許せなくなった。それが、キミが破壊や殺戮をするようになった理由……違うかい?」



 今にも、命が奪われるという瀬戸際の場面……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアは、表情一つ変えることなく、自身が組み上げた推理を披露した。


 その正確さに私が驚愕していることに、この男は果たして気づいているのだろうか。

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