第77話 城へと続く門
私がエリシアの気を引き、その隙をついてユーデリアがグレゴを相手取る……一見、先ほどの戦いの組み合わせを変えただけに映るかもしれない……が、そうではない。
私としては、今こうして投げつけている石を防いでいるのが、エリシアでもグレゴでも、どちらでもよかったのだ。
要は、ユーデリアを二人の近くまで接近させることが目的だ。
「グルルゥア!」
さっきユーデリアには、二人で固まった際に耳打ちをしておいた。問題は、彼がそれに従ってくれるかどうかだったけど……成功だ。
『一瞬でいいから、あの二人の気をそらしてほしい。面白いことをしてあげるよ』
『二人相手にしろって? あんたその間に逃げ……るわけないか。……いいよ、ノッた』
『まあでも、危なくなったら逃げていいからね』
『言われるまでもないね』
私の話にうなずいてくれた通り、彼は二人の注意を引き付け、懐に潜り込むことに成功する。
藍色の体毛を持つ氷狼は吠え、その場……グレゴとエリシアの近距離で、強力な冷気を放つ。並の人間では、ものの数秒で氷付けになってしまうことだろう。
だが、さすがはグレゴとエリシア……普通の人間とは耐性が違う。エリシアは寒いはずなのに私の攻撃から意識をそらそうとしないし、グレゴに至ってはユーデリアを止めようと剣を振るっている。
その迫力たるや、さすがだ。
「はぁああ!」
だけど……いかにグレゴといえど、そう簡単に突破できるほど、ユーデリアの冷気は容易いものじゃない。現に、剣はユーデリアの体へと届いていない。
なぜなら剣が体に届く前に、冷気によって押し返されているからだ。それでも、力任せに押し込むが……剣が届くまでに、後数秒はかかる。
……その数秒が、欲しかった。
「……ふっ」
私の攻撃を防ぐのが、ユーデリアの相手をするのが、どちらでもよかった。二人を一ヶ所にとどめ、数秒足を止めてさえくれれば。
私はその場から駆け出し、二人に攻撃するため……でなく、とある場所に向かう。その場所とは……城だ。
「なっ、あいつ!」
グレゴは早くも、その目的に気づいたらしい。そう、あいつらは当然私を城には近づけたくないはず……いくらユーデリアを相手にしていても、一瞬でも意識は私へと向く。
その隙を、ユーデリアは見逃さない。グレゴの足元を集中的に、凍らせていく。こうすれば、足と地面とが固定され、動くことはできない。
「これは……!」
……そこにいたのが、グレゴ一人だったなら。
「くっ……"ヒートボム"!」
私の石粒攻撃がなくなったことで自由になったエリシアは、火属性の魔法を唱える。氷に対抗するには火……実に効率的だ。
それは自らを中心に、火の爆発を起こすもの。その範囲は広くないものの、ユーデリアに氷付けにされそうなこの状態にはもってこいの魔法だろう。
一瞬のきらめき……爆発が起き、エリシアを中心に火が燃え上がる。ユーデリアは…………よかった、寸前に逃げ出したようだ。彼の反応速度も、なかなかのものだ。
「……よしっ」
「よしじゃねえ! 殺す気かぁ!」
「だから、威力は可能な限り抑えたじゃないの」
あの爆発でダメージを負ってくれればと思ったけど、まあそうはいかないか。魔法を使用したエリシアはもちろん、グレゴも髪がこげてる程度でたいしたダメージはない。
当たり前か……威力を抑えた魔法とはいえ、味方にダメージを負わせる力のコントロールができない奴なら、『魔女』なんて呼ばれない。
「城に近づけるなぁ!」
おっと……こっちも集中しないと。
対グレゴ、エリシアから一時的に離脱したことで、兵士や魔法術師が私を止めるために攻撃を再開。よほど、私を……いやこの国に害なす存在を、城に近づけたくないらしい。当然と言えば当然だけど。
グレゴとの戦いの最中、私の顔を見た兵士らの様子は、動揺が広がっていた。が……今はそれもない。もう私は完全に、彼らの『英雄』ではなくなったってことだ。
完全に、『敵』として認識された。
「いいよ、そうでなくちゃ」
私が元『英雄』だったからといって、戦えなくなるような腰抜けはここにはいなかったってことか。その勢いやよし。
ただ……やっぱりキミたちじゃ、力不足だよ。
「放てぇ!」
"ファイヤーボール"に加え、水や雷、様々な属性の魔法が放たれる。この規模は、主に魔物に対する戦力……少なくとも、個人相手に使うようなものではない。
それだけ私を脅威だと思ってるのかわからないけど、私だってか弱い女の子なんだけどなぁ。こんなにいっぱい撃たれたら、困っちゃう。
「……えいやっ」
いちいち避けるのも面倒だし、これで……
そう考えて、勢いよく突き出した拳から放たれる風圧は、様々な魔法を打ち消すのに充分な威力を持っていたらしい。放たれていた魔法が、一斉に消え去る。
「ば、バカな……ふ、風圧、だけで?」
私としては、ちょっと打ち消せればいいかなと思ってたんだけど……まさか全部打ち消せるとは。
やっぱり、力不足だよ。
「ひ、怯むな! いけー!」
それを見てもなお、向かってくる兵士たち。王国のために、身を捧げろ、ってやつか。立派なものだ。
でも、勇敢と無謀は、違うんだよ?
「とぁあ!」
「えぇい!」
二人の兵士が、斬りかかってくる。私はただ身を屈めるだけで、その二人は体をぶつけて自滅。その隙に二人をぶん投げ、向かってくる他の兵士たちにぶつける。
他にも向かってくる。やれやれ、数だけはいっちょまえだな、どうしたものか。
……そうだ。
「これで、どうだ!」
私は、先ほどエリシアにやったように……地面に落ちていた石を砕き、石粒にしてから兵士たちに投げつける。これで、少しでも牽制になってくれればいいけど。
石粒……いやもはや石の弾丸となったそれは、容赦なく兵士たちを撃ち抜いていく。鉄の鎧にヒビを……どころか貫通し、体にめり込む。中には、鎧ごと体を貫通していくものも。
私が放ったただの石粒は、人の命を容易く奪える凶器に早変わりしていた。
「こ、ここまで効果があるとは……」
さすがに私も予想外だ。さすがに『英雄』が殴る蹴るだけじゃかっこつかないと思ってたけど、まさかこんなことまでできるなんて。鎧を貫通するなんて、下手したら本物の銃弾より威力がある。
……っと、感心してる場合じゃない。私がしたかったのは、兵士たちの相手をすることじゃなくて。
「や、やめろぉ!」
「こっ、ち!!」
城へ入ること……その前段階として、城に入るための大門を壊すこと。兵士が、グレゴが、エリシアの魔法が私を狙っているけど、間に合わない。
「おぉおお!!」
ドゴッ……!
……と、大きな音を響かせ、大門を殴る。この街へ入るときの大門は木製だったけど、これは鉄製だ。ちゃんと壊せるか疑問だったけど……問題はなかった。
鉄の大門は、大きな音を立てて崩れ落ちていく。
「アンズぅうううう!!」
一歩遅かったね、グレゴ……!
グレゴの剣が届く前に、私は刀身を片手真剣白刃取りで受け止める。驚愕に目を見開くグレゴの目に映った私は、ひどく邪悪に笑っていた。




