第67話 次なる目的地
たくさんの死体が、転がっている。この惨状を生み出したのは、私とユーデリアだ。
「……これで終わり……か」
それがどんな気持ちで口から出た台詞なのか、自分でもわからない。ここにはたくさんの人がいて活気があったはずだが、今やその影もない。
やっぱり、一人より二人の方が早く済む。それに、自我を失った奴隷が暴れているのも都合がよかった。彼らが暴れたおかげで、ずいぶんと村は混乱していたものだ。
結果、示しあわせたわけではないけど複数人単位で、この村の人間を全滅させることができた。そして、その奴隷たちも。
「この村も、たいした相手はいなかったな……」
結局、コルマを殺した後では、この村で実力者を見つけることはできなかった。残念だ……というのも変なんだろうが、その気持ちが確かにあった。
この剣も、もう少し試してみたかったんだけどな。さっき、実は何人かを斬って試してみたんだけど……斬った人物の自我を奪う、刺しても即死なら意味がない、死んだ相手には効果がない、くらいしかまだ情報がない。
できることといったら、それだけなのか、それとも他になにかがあるのか。
「なぁ、次はどこ行くんだよ」
剣を見つめていた私に、ユーデリアが話しかけてくる。ふむ、口調はまだまだ生意気だけど、なんかもう、それでいいやって思ってきたよ。
「うぅん……一番行きたいのは、マルゴニア王国ってとこなんだよね。キミ、知ってる?」
次はどこへ……そう聞かれると困ってしまうが、目的地はと聞かれるならばそれは、マルゴニア王国だ。あぁ、殺す前にコルマや商人に、方角くらい聞いておけばよかった。
いつも、そう思うのに……殺した後に、気づいてしまう。
……マルゴニア王国。私をこの世界に召喚した、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアがいる国。彼はその国の王子で、そこは私にとって始まりの場所といってもいい。
いくらいろんな村や町の人間を殺したからといっても、結局のところ私が一番会いたいのは……私を召喚した、あの男だ。
むしろ、あの男のいる王国に行くために、あちこちを巡っていると言っても過言ではない。
これまで、マルゴニア王国に関する情報を得れていないから……ユーデリアがなにか、知らないかと思ったけど。奴隷なら、情報も制限されてるかな。
「マルゴニア王国……知ってる」
「そっかぁ、やっぱり知らな……え!?」
聞いてはみたが、どうせこの子も知らない……そう思っていたところへ、返ってきたのは予想外の答えだった。ゆえに、その言葉は耳を疑うものだった。
同時に、私はユーデリアの肩を掴んで、揺さぶっていた。
「ホントに? 知ってるの!?」
「い、っつ……」
「あ、ごめん……」
あまりに興奮しすぎて、肩を強く掴みすぎちゃったみたいだ。いけないいけない……落ち着け私。
思わぬところからの手がかりに、私はテンションが上がるのを抑えられない。ついに、探していた場所への手がかりが見つかったのだ。
「あんたは、マルゴニア王国に用があるんだ?」
「別にご主人様とかそんな風に呼ばせるつもりはないけど、呼び方もう少しなんとかならない?」
私が買った奴隷……とはいえ、この子の人生を縛る訳じゃない。馴れ合うつもりもない。ただ、呼び方もう少しなんとかならないだろうか。
あんた呼ばわりはさすがにな……年下の男の子にそう呼ばれるのは、なんかやだ。
「……なら、アン」
「……まあいいや」
アン……それは、アン・クーマの名前だ。その名前は、とっさに出た私の偽名だが……まあ、名前はたいした問題じゃあない。変な呼び方じゃないならなんでもいいや。
私が聞きたいのは、もっと別のことだ。
「それで、マルゴニア王国を知ってるって?」
「あぁ。そりゃこの世界でも有名な、でかい国だし……おっと、名前だけ知ってるってオチじゃないぞ。ボクは、そこで売られたんだ」
マルゴニア王国を知っている……それは知識の話ではなく、実際に居たことがある地として。そして驚くべきことにそこで、彼は奴隷へと身を落としたのか。
なるほどね。つまり……
「キミも、マルゴニア王国に恨みがある」
彼は、無言でうなずく。そっか……これはまた、素敵な偶然だ。この世界に対する憎悪の瞳……その始まりが、私と同じくマルゴニア王国にあったなんて。
これはますます、運命を感じられずにはいられないね。運命って言っても、ロマンチックなものでは決してないけど。
それにしても、まさかあの国で……奴隷のやり取りが、あったなんて。三ヶ月も暮らしていたのに、全然知らなかった。
「私も、マルゴニア王国に用がある……そこのくそ野郎には、どうしても私自身の手で、この気持ちをぶつけてやりたい」
……私の探し人は、マルゴニア王国の王子だ。王子は、基本的にその国にずっと居るものだろう。ならば、場所を移しているというのは考えにくい。必ずそこに、いるはずだ。
さらに……もしかしたら、一緒に冒険した、仲間だった奴らもいるかもしれない。あいつらならば、私を退屈させはしないだろう。その代わり、厳しい戦いになるだろうが。
……仲間だった、か。そう、確かに私たちは仲間で、友達だった。でも……今はもう、そんなことは考えられないんだ。
生き残ったグレゴ、エリシア……死んでいったサシェ、ボルゴ、師匠……みんなの想いを背負っていたはずなのに。もう、私は、みんなにすらなにも感じることはない。
「じゃ、案内頼めるかな……マルゴニア王国へ」
「あぁ。あのくそったれな国の、においは覚えてる……どこにいたって、探しだせるさ」
王国を知ってるだけでなく、場所まで……わかるのか。しかも、それにはかなりの自信が見てとれる。これはますます、好都合だ。
これでようやく、マルゴニア王国への足掛かりが掴めたわけだ。ようやく、あの国に……舞い戻ることが、できる……!
「それじゃあ……早速、行こうか」
村の入り口に待機させていたボニーのところにまで戻り、無事を確認する。村の中であれだけのことが起きてたのに、逃げなかったんだ。
それに、村の入り口から、村人や奴隷が出てこなかった。つまり、誰の目にも触れることなく安全地帯にいることができたのだ……この子は、運がいいのかもしれない。
「次の目的地が決まったよ。少し距離があるかもしれないけど……頑張ってね」
私の言葉を理解しているのかいないのか、どこか嬉しそうに鳴く姿を見て……少しだけ、心に余裕ができたような気がした。




