違和感の村
道中で出会ったコルマ・アルファードという男。何者かはわからないけど、結果として彼と行動を共にすることに。
ポニーに乗った私と、リザードルに乗ったコルマは目的地の村を目指し、お互いに並んで足を進めていた。やっぱり、自分で走るよりもだいぶん楽だ。
先ほどの集落から、この方角は……私は、行ったことのない所だ。つまりこの先になにがあるのか、まったくわからないってことだ。
「さて、もうすぐで村につく。アンは、はじめて行く村なのかい?」
「はい、そうなんです。頼まれ事があって行くことになったんですけど、行くのは初めてで……知ってる人がいると、心強いです」
もちろん、頼まれ事というのは嘘だ。当たり障りのない単なる口実……だが、そこに突っ込まれることはない。それを深く追及する人は、普通いないからね。
逆に、行くのが初めてであることは、嘘じゃない。嘘をつくときは、話の中に時折真実を混ぜるのがミソだって、テレビで見たことがある。それを使わせてもらった。
「そうか……なら、少しだけ驚くかもしれないな」
「……驚く?」
初めて行く村……そこで、驚くことになるのだと彼は言う。その言葉の意味するところは、私にはわからない。
なので、その意味を問いかけようとするのだが……
「バルルォ!」
それよりも先に、リザードルが鳴き声をあげる。それにより意識はそちらへと持っていかれ……リザードルの視線の先へと続く。足が向かうその先には、ひときわ大きな村と呼べる一帯があった。
どうやら……次なる目的地についたらしいな。
「ま、行ってみればわかるさ」
目的地が見え、説明を省略したコルマだが……確かに、聞くよりも見た方が早いかもしれない。そういうわけで、私もそれ以上の追及をやめる。
気にはなるけど、それもあと数分もすればわかることだ。
「さ、入るよ」
村の入り口を見つけ、そこへと向かう。外から見た限りでは、単に少し大きいだけの村だけど……驚くというその村の内部はいったい、どうなっているのか。
外からは、大きな壁のようなものがあり村を囲っている。村とは言うが、その規模はそんじょそこらの村とは規模が違う。国とまではいかないが、なるほど大きな所だ。
村へとつながる門を潜り、そこにあったのは……
「おぉ」
これまで目にしてきたものとは、全然活気の違う村。人の往来は多く、あちこちで賑やかな声が聞こえている。大きな村ではあるけど、それによって人同士のコミュニケーションが乏しいことはない。
むしろ、人と人との距離がだいぶ近いようだ。
……これだけの人間が、これだけの笑顔が、私の救った数のほんの一握り……そして、私がこれから手にかける数だ。
「どうした、アン」
「なんでも、ないですよ」
いけないいけない。妙に鋭いこの男の前じゃ、下手なことを思案することも出来ないな。気を落ち着かせないと。
……それにしても、この村のなにに驚くっていうんだ。確かに、村の規模こそ大きいけど、驚くというほどのものでもない。大きな村というだけでは、そこまで驚きようもないと思うけど。
「あの、コルマさん。この村になにが……」
「アン、この村のこと、どう思う?」
この村のなにに驚くことがあるのか……それを聞くよりも前に、コルマは質問してくる。この村のことを、どう思うかだって? そんなの……
「賑やかな、村だなと」
こう答えるほかに、なにがあるというのだろう。まだ来たばかりだというのに。
……ただ、正直な話……村に入った瞬間から、謎の違和感のようなものを覚えてはいるけど。こう、胸がもやもやするような。
「あぁ、そうだな。この村は賑やかだ。けど、なんの対価もなしに賑わっているわけじゃない」
「?」
「これだけ村が賑わうには、それだけの理由があるってことだ」
なにを、言っているんだろう。この男は。思わせ振りではなくてはっきり言ってくれればいいものの。
そうやって問答している間にも……私達はいつの間にか、人通りの少なくなってきた場所へとやって来ていた。
いや、正しくはコルマについてきただけなのだから……やって来たよりも、連れてこられたと言った方が正しいかな。
「……」
なぜこんな所に……まさか、私の正体がバレた? 始末するために人気のない場所に連れてきたのか?
……いや、それならわざわざ村に来る必要はないはずだ。それとも、仲間が近くに控えているとか? 数で押しきって私を殺そうと?
「……この辺りか」
急に、コルマの足が止まる。それに伴い、私も足を止めると……先に足を止めたコルマが、振り向いて私に視線で促す。あちらを、見ろと。
建物の陰に隠れるようになっているこの場所……曲がり角のような場所から、顔を覗かせる。その先には、なにやら大きな馬車のようなものが止まっていた。
その近くには、三人の男が話をしている姿がある。
あれは……なにかの、商業的なものだろうか? それにしたって、なんでこんな人気のない所で……
「!」
次の瞬間、馬車の扉が開く。中から、人が出てくる……それも、一人や二人ではない。ぞろぞろと……あれは、なんだ?
誰もが、俯いて暗い顔をしている。老若男女、人間獣人と様々な人種。しかも、手首に手錠をはめられ、その首には重々しく首輪のようなものがはめられている。
あれはどう見ても、チョーカーのようなファッション的なものではない。それはペットにつけるような、首輪だ。
これだけの要素があれば、想像はつく。彼らが、なんなのか。彼らは……
「アレは、奴隷だよ」
私の疑問に答えるように話すコルマは……彼らを『アレ』扱いし、その顔にはほのかに高揚した笑みが浮かんでいた。




