終わりの見えない時間
……
『アンズ』
…………
『アーンズ?』
………………あれ、今私……どうしてるんだっけ。どうしてたん、だっけ。
『あ、よかったよかった、目が覚めた。死んじゃったのかと思ったよー。ま、この世界で死ぬことはないんだけどね』
『……エリ、シア』
視線を動かすと、横になっているエリシアがいる。……違う、私が横になっているんだ。空中に座った様子のエリシアは、変わらぬ様子だ。
死んじゃったのかと、思ったって……物騒な……
『っ……』
『あは、なにが起きたか思い出した?』
とっさに、左目を押さえる。大丈夫だ、左目はちゃんとある……抉り取られては、いない。
私は、私が今まで殺してきた人たちの、死の体験をしている。死の苦痛を、この身で体験……でも決して死ねない。ここはこういう世界で、私の頭の中だから。
そうだ、私は……エリシアの、死んだときのものと同じ痛みを。左目を、左目にあんな、強烈な痛みが……
『痛かった、なんてもんじゃなかったよ。それが大袈裟じゃないことくらい、わかるよね? だって、その痛みを受けたのは私自身で、アンズがしたことなんだから』
『……』
エリシアの言うように……私がエリシアを、殺した。その方法は、生きたままのエリシアから、左目を抉り取って……という、自分でもおぞましいと思えるものだ。
正直、そのときの記憶は私の中では曖昧だ。そのときの私は、よく覚えてないけど飢餓を感じていた……と思う。そこにある、美味しそうなものをただ求め、私は……そしてそれが、エリシアの……
『くっ……』
覚えないことだったとはいえ、私がエリシアの左目を抉り取ったのは事実だ。それが今、証明された。その後左目を食べ、この左目はエリシアのものになった……うっ、思い出したら吐き気がしてきた。
そうか、私は……左目を抉り取られる感覚に、あまりの苦痛に気を失っていたのか。この空間で、気を失うなんてことができたのが不思議だったが……それほど、衝撃だったということだ。あんなの、二度と味わいたくない。
さすがに、以降の私は目玉を抉り取るなんて殺し方はしていない。だから心配いらない……とはいかない。エリシアの死の体験をしたばかりで、まだ他にたくさんの死が待ち構えて……
『ぐっ……えぇ……!』
あぁ、また、来た……この、痛み。今度は、お腹……いや胸の奥か。締め付けられるように苦しく、内臓を直接握られているみたいだ。そしてそのまま……
『……っ、はぁ! はぁ……』
再び始まる、苦痛の時間。あとどれだけ、この苦痛を味わえばいいのだろう。それを考えるとおかしくなりそうだし、私がこれまでにしてきたことを考えれば、当然……
『はぁ、っあ……』
これまでは、大きすぎるダメージを受けたときでも、眠れば多少なり回復した。でもこの空間では、眠ることも気絶することもできない。
さっき左目の痛みで気を失っていたのは、多分……左目を抉られたエリシア本人が、目の前にいたから。本人がいることで、本人が受けた苦痛が、記憶が、ダイレクトに伝わってきた。それで、気を失うほどの衝撃を受けてしまった。
気を失っている間に別の苦痛を与えられなかったのは、起きている私に苦痛を与えないと意味がないと思ってだろうか。それとも、気を失っている間にも苦痛を与え続けられていたのか……
どっちにせよ、この苦痛の時間はまだまだ続く。なぜか、楽しげな表情を浮かべているエリシアに、見守られながら。
『っ、が、ふっ……!』
終わりの見えない時間が、続いていく……




