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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
最期の英雄

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因果応報



 話をしよう……そう言ったエリシアの顔は、笑顔の表情を浮かべていた。それは、私がいつも見ていた、エリシアの笑顔だ。ただ、楽しげに笑っている……はずなのに、どこか違和感を感じる。気がする。



『……』



 今、外での時間の流れはどうなっているのだろう。……自然と外という表現を使ったけど、これは私の頭の中で起こっている出来事、でいいんだよね。さっきまでぼんやりしていた頭がこうして、冴えてはっきりと考え事ができるのも、そういう理由だからだろう。


 頭の中でエミリアと対面しているこの時間は……体が消滅していく外の時間と、同じ流れなんだろうか。それとも、流れが違っているのだろうか。私の意識は今、どうなっているのだろうか。


 外から呼び掛けてくれていた声は、もはやぼんやりとしか聞こえない。外の意識はもう途絶えていると言っていい。いや、正しくは、頭の中に引き込まれた……といった方がいいのかもしれない。


 だから、私は今、頭の中の方に意識がいっているのだろう。だから、殺したはずのエリシアとこうして、会うことができている。



『エリ……』


『アンズ、あなたはもうすぐ死ぬ……それは、自分でわかっているよね?』



 エリシアの名前を呼ぶその前に、エリシア自身から死の宣告を受ける。ただ、これは私も予想していた……というか、確実にそうなるという予感があったため、驚きはしない。


 ただ……話というのは、それなのか。なにかもっと、重大なものかと思っていた……それこそ、私に殺された恨みをぶつけてくるとか。でも、エリシアの言葉は……



『うんうん、それがわかってて、その落ち着いた様子……肝が座ってるね。さすがはアンズ、って言っていいのかはわからないけど』



 私の体を、心配している……のだろうか? その笑顔は、言葉は、とても私を憎んでいるようには思えない。



『エリシア……話って、それだけ?』


『んー……これだけって言えるし、これだけじゃないとも言える』



 要領を得ない……これはやはり、私が見ている幻のようなものなのだろうか? 私が、死の間際に見ている幻……なぜエリシアなのかは、さっき彼女本人が言った通りだ。私はエリシアの左目を、体の一部として宿していた。


 だから、無意識にでもエリシアが私の中にいるような、そんな感じがしていたのだろう。



『まあでも、最後に見るのがエリシアの幻なら、それも悪く……』


『んー……そろそろかな』


『え?』



 最期の走馬灯、ともまた違うのだろうが、この世界に来て初めてできた友達と、最期の瞬間に会えるのならばそれは悪くない……そう、言おうとした時だ。エリシアが、またも私の言葉を遮ったのは。


 そして、直後に……訪れる。



『っ、か、ぁ……!?』



 痛みが。それも、ただの痛みじゃない。喉にチクリとした……どころじゃなくて。まるで喉をかき切られたみたいな感覚で痛い痛い痛い痛い痛い痛い!



『あっ、っふ……が……』



 声が、出せない。痛い。喉をかきむしりたいくらいに妙な感覚。痛い。恐る恐る喉に手を当てるけどおそらくなんともなっていない。痛い。


 なんだこれ、なんで急に痛みが……



『始まったみたいだねー』


『あ……?』



 あまりの痛みに絶叫してしまいたくなる。けど、絶叫を、声を上げることすらつらい。そもそもこの空間は私の頭の中で痛い起こっているはずだ。なのになんで痛いこんな痛みを感じる……?


 痛い、痛い痛い……!



『アンズは、その痛みに覚えはないと思う。だって、普通喉を切られたら死んじゃうもん。でも。その痛みがなにを意味するのかは知っているはずだよ』



 痛い痛いなにを痛い言ってるんだ……? そりゃ私は、痛いこんな痛みを、いや傷を痛い経験したことはない。死ぬほどの傷を受けても痛い治せるこの世界、だけど喉に致命傷を痛い負ったことは痛いない。


 それを、痛みがなにを意味するか知っている……? ダメだ、痛みで痛い頭が痛いぼんやりして……



『アンズは今、喉を切られたような感覚に陥っているはずだよ。でも、アンズは今まで喉を切られた経験はない……どうしてそんな痛みを感じているのか、わかるかな? あ、この場所では外と違って、痛みなんてものは感じないんだけどね。それでも痛いって感じのは、不思議だと思わない?』



 やばい、痛い、苦しい、痛い……いつまで続くの、この痛みは。エリシアがなにか言ってるけど、もうそれどころじゃない……



『それはね……過去の出来事が、アンズの頭の中に再現されているから。アンズの脳が感じた過去の痛みを、そのままアンズが実際に受けた痛みと認識しているんだよ』


『がっ……?』


『たとえば……火の魔法で熱したものに手を触れると、やけどしちゃうよね。でも、それが本当は熱くないものでも、熱いものだって脳が認識したら実際にやけどしちゃった、みたいな……あぁごめんごめん。こんなこと言っても、今のアンズには理解できないよね』


『あ、ぅ……』


『なんせ、死ぬほどの激痛……いや、実際に死ぬほどの痛みが、襲ってきてるんだから』



 ……なんだろう……前半、ごちゃごちゃと小難しいことを言っていたように感じたが……最期の部分だけ、いやにはっきりと聞こえた。


 死ぬほどの痛み……? それ、どういう……



『今アンズが感じてるのはね……アンズが一番最初に殺した人の、痛みだよ』


『……は?』



 激痛は和らがない。それでも、エリシアがなにかとても重要なことを話している気がして……必死に、耳を傾けた。



『覚えてない? アンズがこの世界に戻ってきて、一番最初になにをしたか……人を、殺したときのことを』


『……ぁ』



 この世界に戻ってきて……つまり、復讐を決意してからのことだ。よく覚えている。これまで幾人の人を殺してきたとはいえ、それは初めての人殺しだったのだから。


 この世界に戻ってきて私は、そう、近くの村に行って……そこで、一人の村人を殺した。それが女だったか男だったかはさすがに覚えていないけど、確か、手刀で喉をかっ切……



『……ま、ざか……』


『そう、気づいた? それは、アンズがこの世界に戻ってきて一番最初に殺した人が受けた、痛み。アンズは手刀で、その人の喉を切ったんだよ。魔王討伐の旅で鍛えられたアンズの力なら、たったそれだけで即死に至らしめることができる一撃……でも、そうはなってない。覚えてるかな?』



 そう、だ……喉をかっ切った。出血多量により、普通ならそれですぐに死ぬ。でも私は……



『アンズはその人の喉を切って、ご丁寧に回復魔法を使った。でもアンズ本人も知っての通り、アンズの使える回復魔法は少し複雑……傷だけを治すなんていう、普通の回復魔法に比べたら欠陥もの』



 私は……喉を、切って……それで、即死、させなかった。傷だけを治す回復魔法で、外傷だけを治した。つまり、出血多量で死ぬことはなくなっても、死ぬほどの痛みを死ぬまで受け続けるという、自分でもおぞましいと思える方法をとった。


 ……まさか、この痛みが、続いてるのって……



『さっき言ったよね、アンズが今感じてるのは、一番最初に殺した人の痛みだった。そう、殺された人の受けた痛み……死ぬまで受けた、苦痛の時間だよ』


『!』



 この痛みは、最初に殺した人の痛み。この痛みが、すぐに消えないのは……私があのとき、すぐに殺さずに苦痛の時間を長引かせたから。つまり、私はその人が死ぬまでに味わった苦痛の時間を、今体験している……



『っ、か……!』


『痛いよね、苦しいよね。でも、それがアンズが殺した人が受けた、痛みなんだよ。あのまま、手刀で喉を切ったときにすぐに死なせてあげれば、切られた瞬間はともかくそれほどの苦痛を味わい続けることはなかったのに』


『あ、ぅ……も、やめ……ゆる、し……』


『やだなぁアンズったらなに言ってるの? 情けない声だしちゃってー。まだ一人目だよ?』



 ……は? まだ、一人目……?



『あはは、その驚いた顔。だって当然でしょ、アンズがこれまでにしてきたことを思えば……"そんな程度の痛み"で終われるわけないじゃん』


『う、そ……』



 もしかして……今から、私が殺してきた人たちの、受けてきたその痛みを、苦しみを、受け続けるの? 一人目って……一人だけでも、こんなに痛いのに? そんなの……って……



『アンズ、最期はただ消滅するだけだと思ってた? それでいっちょまえに、これが私にはふさわしい罰だとか思ってたよね。それでも最期は妹に看取られて、幸福だとか思ってたよね』


『……』


『冗談じゃないよ……アンズ、確か自分の世界のことわざってのをよく教えてくれたよね。その中に、こういう言葉があったの思い出したよ。自分のしたことが自分に返ってくる、良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが……それを、"因果応報"って言うんだっけね。いい言葉だよね……うん、すごく、そう思うよ』

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