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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

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第53話 奇妙な男



 名前を聞かれた私は、まさか本名である熊谷 杏を名乗るわけにもいかないので、とっさにアン・クーマと名乗っていた。熊谷 杏を文字ってアン・クーマとは、我ながら安易なネーミングだとは思う。


 けれど、それを不審に思われることはなくて。当然だ、これが偽名だと知ってるのは、私だけなのだから。


 男……コルマ・アルファードと名乗ったその男は、にこりと笑みを浮かべている。本当に、さっきの虐殺を繰り広げたのと同一人物かと疑いたくなるくらいに。


 この男が何者かわかるまでは、私は正体を隠しておいた方がいいな。



「アン・クーマか……なら、アンと呼んでいいかな?」


「……どうぞ」



 今さらだけどこの世界では、名前が先に来る。つまり、こいつはいきなり名前呼び捨てにしてきたわけだ。


 ……別にいいけど、やっぱり馴れ馴れしいな。


 それにしても……アルファード、か。聞いたことないな。これでも勇者時代はそこそこの情報は得ていた。聞き覚えがないってことは、どこかの有名貴族とかではないのだろう、多分。


 もっとも、そんなお偉いさんがこんな虐殺まがいのことをしているとわかれば、それはそれで問題だけど。



「えっと……アルファードさん」


「コルマでいいぞ?」


「……コルマさん」



 なぜこの男はこんなにも馴れ馴れしいんだ……自分のことも名前で呼ばせようとするなんて。まあ、そんなことはどうでもいい。



「ずいぶん、剣がお上手なんですね」



 今必要なのは、この男の情報だ。少し、探りを入れてみよう。気配を殺し、無垢な一般人を装うんだ。



「そんなことはないさ、嗜み程度だよ」



 私の質問に対し、コルマはたいしたことではないと返す。と言われて「そうなんですかー」と納得できるはずもない。あの剣さばき、どう考えたって嗜み程度で済ませていいものじゃない。


 どこかで剣を習った? それとも、我流? 剣に慣れているのは間違いないだろうけど……まさか、人殺しとかそういったものを生業にしてないよね。


 だとしたら、人の気配には敏感だろう。こちらが少しでも殺気を見せようものなら、警戒されてしまう。


 やはり、この男の正体を暴かないことには……



「それにしても、危ないぞ? 女の子が一人で、しかも丸腰とは」


「あ、はは……そうですよね」



 この男、私の正体には気づいてない……それどころか、か弱い一般人だと認識しているようだ。正体を隠しているかいがある。


 別に正体を隠さず、抵抗覚悟で即座に殺しにいってもいいはいいのだが……この男、隙だらけなようで、隙がない。


 うぬぼれるわけではないが、『英雄』と呼ばれた私が誰かに後れをとることなど、ほぼあり得ない。魔王みたいな強大な敵や、苦楽を共にした勇者パーティーメンバーが相手ならともかく。


 だけど……この男は、もしくはあのへんな剣は、単純に計れない『なにか』がある。その『なにか』がなにかはわからないけど、それが判明しないことには下手な手出しはできない。抵抗どころか返り討ち、では笑えないし。


 結局は、この男の素性を探ることに専念するしかないか……



「けどアン……キミならあの程度の奴ら、すぐに倒せたんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?」


「っ……」



 素性を探るためになにを投げ掛けるか……それを考えていたところに、コルマ・アルファードの方から問いかけが来た。


 それも、単なる質問ではない。まるで私の正体……いや、少なくとも、私がなにかしら戦いの心得があると、わかっているようなものだ。


 それとも、かまをかけているだけ?



「そんなこと、ないですよ。……どうして、そう思うんですか?」



 この洞察力……単にかまをかけているだけか、それとも……なにかしらの、確信があるのか?



「どうして、か。なんとなくかな」


「……」



 とぼけているのか、それとも本気か……害のない笑顔を浮かべるコルマ・アルファードに、私はなにも言えない。というか、なにも感じない。それが本気か嘘か、感じ取ることも。


 本来なら、相手が嘘をついてるかどうかはある程度判断できる。しかし、この男からは……なにも感じない。わからない。



「きっと、気のせいですよ」



 だから私は、こう言うしかなかった。


 コルマ・アルファードの表情は、やはり読めない。いったい、何者なのか……人間であることは間違いないんだろうけど、他にはなにもわからない。


 今まで、誰が相手でもなにかしらを感じ取ることができた。それが仲間でも、敵でも、人じゃなくても。怒りでも悲しみでも、感情だけでも。


 でも……なにも、感じないのだこの男からは。



「ところでコルマさんは、なにかこの先に用事があるんですか?」



 このまま探っていても、不審に思われてしまうだろう。仕方ない、ひとまず、話題を変えよう。


 もしかしたら、ここから、近くの村もしくは町の情報を得られるかもしれないしね。



「あぁ。この先の村に用があってね。そこへ向かう道すがら、アンが困っているのを見かけたわけだ」



 ……ビンゴだ。業者でもなさそうな人間が、なんの目的もなくこんな所を通らないだろうとは思っていたけど。


 なら、この男に着いていけば、確実に次の村にたどり着けるということだ。



「そうなんですか。実は私も、そこに用事があって」


「へぇ、そうなのか! なら、一緒に行かないか? またさっきの奴らみたいなのが出てこないとも限らないし」



 この男の人となりが、この短い時間でもわかってきた。その一つとして、ここで同じ目的地だと言っておけば、まず間違いなく放っておけないタイプだと思った。


 そして、それは予想通りだ。同行を向こうから申し出てきた。



「いいんですか? ぜひ、お願いします」



 次の村につくまでの、間……この男、コルマ・アルファードと行動を共にすることになった。


 目的地につくまでの間、この男が何者であるかも含めて、いろいろと探ってやろう。

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