その末路は
最期に、理性の失っていた瞳の中に光が復活し……直後、ユーデリアは消滅した。それは長いようで、一瞬の出来事。ついさっきまでそこにいたのに、もうそこにはなにも残っていない。
ただ、その人物が消えても痕跡まで消えるわけではない。周囲には、ユーデリアの血や氷がある……消滅したらなにもなくなると思っていたけど、残っているものもあるということか。
ただ、呪術の力により消滅した体は、魂は、どこにいくのかわからない。果たして死後の世界というものがあるのだろうか。そしてそれは、いずれ私も辿るであろう、道……呪術の力で、私自身が呑み込まれてしまうのだから。
……さて、残るは……
「……お姉ちゃん……本当に……」
私がユーデリアを消滅させた、その光景を見ていたあこ……私の妹だけだ。
あこが今の私をどう思っていようが、それはもう関係ない。私はただ、なすべきことをやるだけだ。
あとは、あこを元の世界に帰して……それで……
「お姉ちゃん……」
「あこ?」
あこへと、向き合う。しかしあこは、なにか驚いているような……いや怯えている? そんな様子で、後ずさっている。
ま、あんな光景を繰り返し見続けたんだ……魔獣などある程度過激なものは見慣れていたとしても、人殺しなんてものは見慣れていいものじゃない。いや、見慣れるもんじゃない。人殺しをするのも見るのも、慣れてしまったら……それはもう、後戻りはできない。
それが、私なのだから。
「あこ……ごめん、怖かったよね。でももう……」
「ちが、違う……お姉ちゃん、そ、その体……」
「体?」
あこが怯えているその理由……それは私の行いによるものではない。いやそれも含まれてはいるのだろうが……それよりももっと、衝撃を受けるなにかが。
あこは私の体を指して、震えた声を漏らす。私の……自分の体がどうなっているのか、鏡でもない限り全身を確認することはできない。けれど、あこのあの様子……ただ事ではない。
この手は、相変わらず黒く染まったままだ。手だけではない、この目で見える範囲……足も、お腹も、胸元も……全部、黒い。黒く染まって……この手と同じく、そこに存在を感じられない。
「……もしかして……」
まさか体の一部だけじゃなく……もう全身が、黒く染まって、呪術に呑まれてしまっているのか? その姿を見て、あこは……
呪術の力を使いすぎるほど呪術の力に呑まれる……なんてことがあるのかはわからない。でも、私はガニムにケンヤ、そしてユーデリアと、この力を振るった。
あの消滅の力が、相手だけでなく……自分にも、跳ね返ってくるのだとしたら……私は……
「……私には、お似合いの末路かもね」
もう、渇いた笑いしか出てこない。たくさんの人を殺して、壊して、精霊さえも殺して世界の機能を狂わせて……その末路がこれだというのか……まったく、お似合いだね。




