同志
「絶対、させないから!」
「……!」
私の後ろから抱きつき、それ以上進んでしまわないようにしがみつくあこ。それは、ユーデリアを殺すために進もうとしている私を、止める行為だ。
なんでだ……こいつは今、あこを殺そうとしたんだ。だからそいつに、お灸を据えてやる。私の目の前で、しかも庇ってくれているあこに対して、後ろから刺そうとしたのだ。到底許せるものではない。
なのに……なんで、止める!
「あこ……」
「お姉ちゃんが人殺しをするところなんて、もう見たくないよ!」
私だって、あこの前でこんな姿を見せたくはなかった。だけど、こうでもしないとあこが私から離れることはないだろうから。
あこには生きていてほしい。あこには幸せになってほしい。だから私は……
「どいて!」
「きゃっ」
無理矢理にでも、あこを振り払う。まさか私に振り払われるとは思っていなかったのか、振り払われたあこは後退りしてしりもちをつく。
そのような行為にも、心が痛む。これまでいろんな人にいろんなことをしてきたというのに、まだ痛む心があったんだなと驚いたけど……その気持ちは、後回しだ。
あこを振り払ってから、ユーデリアへと再び足を向ける。ユーデリアはただ、こちらを睨み付けている。
「アン……!」
「あのままおとなしくしておけば、放っておいてもよかったのに……あこに手を出そうとするから、悪いんだよ」
氷の義手義足は、中途半端な位置までしか作れていない。肘、膝辺りってところだろうか……そんな状態では、満足に動けはしない。万全ではないから、ユーデリアの冷気も今は脅威ではない。
だから……
「むざむざ、殺されるか!」
「……」
万全ではない状態から放たれる冷気も、手を振るうだけで簡単に払うことができる。
「なっ……」
「ユーデリア、キミの復讐はもう済んだでしょ? よかったじゃない、自分の手で果たせて……だから……もう、いいでしょ?」
ユーデリアの目の前に立ち、黒く染まった手を伸ばす。先ほどのガニムとケンヤの有り様を見ていたからか、必死に体を動かして抵抗の姿勢を見せるが……手足が充分でないのだ、ただもじもじと動いているだけ。
さっきまであれだけ生意気で、上から目線だったというのに……今や、芋虫みたいに地面を這って逃げようとしている。
なんだか……
「悪くないかも……」
ユーデリアとはこれまで共に旅をしてきた、いわば同志のようなものだ。仲間ではない。そんな相手が、今無様な姿をさらしている。
その姿を見続けているのも悪くない。けど……さすがにそろそろ、その顔も見飽きたよ、
「お姉ちゃん……!」
後ろから、あこが駆け寄ってくる音が聞こえる。振り払っただけじゃ、たいした時間稼ぎにはならない……でも、これで充分だ。
ユーデリアの首元に手を伸ばし、掴むには。
「ぐ、ぇ……!」
「お姉ちゃん!」
這うユーデリアの背後から、地面に押さえつけるように首元を掴む。背後から押し倒しているため、ユーデリアの顔が見れないのが残念だが……それが始まるのは、すぐのことだ。
消滅の時が、訪れる。




