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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄vs氷狼vs……

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愛してる



「お姉ちゃん……」


「……」



 そこには、あこの顔があった。私を心配そうに見つめる、妹の顔が……



「わ、わたし、は……」



 違う……その一言が、出てこない。今の私の姿はきっと、客観的にも見ていられない姿だ。だから違うと言えば、それで納得するはずだ。そう、そのはずだ。


 だから……目をそらせ。口を開けろ。違うと言えば、それだけで……



「お姉ちゃん……お姉ちゃん、お姉ちゃん……!」


「ぁ……」



 瞬間、温かいなにかに体が包まれる。それがなにか、なんて考えるまでもない。そこにあるのは、いるのは一人しかいないのだから。


 あこが、私を抱き締めている。それだけで、今まで痛みもなにも感じなかった体に、温もりが感じられる。体の外側からも、内側からも……あぁ、こんな温かい気持ちを感じたのは、いつぶりだろうか。


 この世界に戻ってきてから……いや、そのずっと前から、きっと私はこの温もりだけを、求めていた。



「私……ちが、違う……私は……」


「違わない、間違えない……私がお姉ちゃんを、間違えるはずがないよ」



 それでも、離れないと。そんな思いは、ようやく言葉に出るが……即座に、否定される。間違えるはずがないという、なんとも曖昧で、でも確かなもので。


 こんな姿になっても、あこは私を……



「あのね、話したいことがあるんだ。いっぱい、いっぱい……」



 力強く、抱き締められる。ダメだ、今の私に触れるのは、なにが起こるかわからなくて危険なのに……ここが心地よくて、このまま身を委ねてしまう。


 話したいこと……私だって、いっぱいある。まさかまた、こうして話すことができるなんて、思わなかったから。



「でも、どうしてお姉ちゃん、この世界にいるの? もしかして、私とおんなじで死んじゃったの? あの時お姉ちゃんが行方不明になったのって、それで……? ……あ、私も死んじゃった、っていうのはね……」



 話し出したあこの言葉が、途切れない。話したいことを、とりあえず片っ端から挙げている感じだ。そんなむちゃくちゃな話でも、声を聞くだけで、こんなにも嬉しい。


 どうやらあこは、予想していた通りに私がこっちの世界に召喚されている間に死んでしまったあと、こっちの世界に転生したようだ。そして、この世界で今日まで生きてきた……ということだ。


 だけど……



「あこ……」


「ん?」



 こっちの世界で過ごしたことを語るあこは、本当に嬉しそうだ。それでも、このままあこをこっちの世界に居続けさせるわけにはいかない……水の精霊を殺したことで、この世界は確実に終わりに近づいている。


 せっかくこっちの世界に転生し、二度目の人生を生きているあこを……死なせるわけにはいかない。あこを二度も、死なせはしない。



「向こうの……元の世界に、戻ってほしいの」


「……え?」



 すべてを説明するには、あまりに長い時間を要する。それに、私がこれまでやってきたことも話さなくてはならない……伝えるのは、要点だけでいい。



「この世界は、もうすぐ終わる。だから、そうなる前に元の世界に……」


「い、いやいや……待って待ってよ」



 ふと、あこから制止の声。まあ、当然か……なにもかも突然すぎるし。自分でも、急すぎる話題だと思ってはいるが。


 世界は終わるとは言っても、実際にはこの世界から水という水とがなくなるだけ。けれどそれは、飲み水もなくなり……水が飲めなくなり、水のない世界ではわずか数日で死んでしまうことを意味している。


 世界が滅ぶも、人が死ぬも、結局は同じ意味だ。



「そんな、いきなり、そんなこと言われても……わかんないよ。それに、私はもう、あっちの世界では死んで……」


「だとしても……この世界にいたままじゃ、確実に死ぬ。また死ぬことになるんだよ」



 困惑するあこを、納得させるために……あぁ、だから目が覚めないうちに、事を終わらせたかったのに。



「お姉ちゃんも……お姉ちゃんも一緒に、戻るんだよね? お姉ちゃんも一緒だよね?」


「……」



 私は……もう向こうにも、居場所はない。こっちにも、当然居場所はない。だから……



「私は、あこを愛してる。だから、あこだけでも生きてほしい……」


「そんなの、私だってお姉ちゃんのこと大好きだよ!」


「ここにいたら死ぬんだよ!」


「死ぬのはやだ! でも、お姉ちゃんと離れたくない、もう二度と……ずっと、お姉ちゃんと一緒がいい!」


「っ……」



 わかっては、いたことだ。いや、予想はしていた……一人元の世界に帰るように説得しても、それを受け入れてはくれないだろうと。


 だってあこは、私の妹なんだから……なんて答えるか、くらい……



「私は……もう、元の世界に、居場所なんて、ない。戻っても、どうしようも、ないんだよ」



 居場所がない……それは、一度元の世界に戻ったときに、嫌というほど思い知った。私のせいで家族が死に、親族からも、みんなから恨まれていた。それに、元の世界にいたら嫌でも、お母さんやお父さんのことを思い出す。こっちで暴れているときは、気が楽だった。


 あんな思いをもう一度するなんて、耐えられない。



「そんなの、私だって……もう、死んでるんだよ! 向こうに戻れたとしても、死んだ人間がいるなんて、おかしいじゃん! 私にも、居場所はないよ!」



 ……あこにも、居場所がない。死んでしまった世界で、どう居場所を見つければいいのだと……そう訴えてくるようだ。


 でも、この世界に居たままじゃいずれ死ぬ。元の世界に戻っても、居場所はない。だったら……



「だったら、二人一緒に死ねばいい」


「っ、か……ふっ……」


「……ぇ」



 刹那……誰かの声が聞こえ、あこの口から苦しげな声が漏れる。あこの口から吐き出された血が、私の顔に飛び散り……同時に、腹部に衝撃的な、痛みが走った。

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