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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄vs氷狼vs……

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本当の再会



 分厚い氷が、溶けていく。まるで熱を持ったかのように……いや、実際に熱を持ったこの手は、氷を溶かすほどのものとなっている。


 魔法は、使っていない。というか使えない。ということは、これも呪術の力の一つであろうか……なんでもありだな。知っていたけど。


 氷だけでなく、中の人まで溶かしてしまわないか……そんな心配もあったが……



「……お」



 ゆっくりと氷だけを溶かしていき……中に閉じ込められていた人が、倒れる。受け身もなしに地面に倒れて痛そうだが、意識を失っているためか「うっ」と声を漏らしたくらいだ。


 中の人には危害を加えずに、氷だけを溶かすことができた……それはつまり、この力なら、あこを助けられるということを意味している。


 なんとなく、手を握ったり開いたりしてみるが、支障はない。よし、これなら……



「っと……えい」



 パキッ……



 あこのところへ行く前に、ユーデリアが作りかけていた氷の義足を砕き割る。ユーデリアを放って氷を溶かすためにあれこれしていたから、いつの間にか氷の義足が完成しつつあったみたいだ。


 このまま動き回られては、面倒だしね。そういえば、なんでまた狼の姿にならないんだろう。あまりに体力を使いすぎて、人型と獣型を変形する力さえも残っていないとか。そこに力がいるのかとかわからないけど。


 それとも、四肢をもがれた状態で獣型になっても意味がないと考えているからか……ま、どっちでもいいことだ。



「さて……」



 とにかく今は、ユーデリアなんかに構っていられない。私は心を落ち着こうとしつつ、気持ちが逸るのを感じていた。ただ、氷を溶かそうとしているだけなのに。


 あこの氷像の前に移動し、手を当てる。ジュー……と、先ほどと同じようにフライパンでなにかを熱しているような音が、響く。果たしてこれは氷を溶かす音に合ったものなのか、という疑問が浮かぶが、すぐに捨てる。


 別に手が燃えていたり、火を出しているわけではない。ただ、熱を持ったそれが氷を、確かに溶かしていく。


 氷が完全に溶けきる必要はない。中の、あこが出てこれる空間だけ作れればいい。なのに、氷がゆっくり溶けていくその時間さえもどかしい。



「……」



 あくまで氷を溶かすことに集中しつつも、周囲への注意も怠らない。ユーデリアが、ケンヤが、またなにかをしようとする可能性も残っているのだから。


 そうして周囲を注意しつつも、劇的ななにかが起こることはなく……氷が、溶けていく。ゆっくりと、しかし確実に。分厚い氷は溶けていく、その中に閉じ込められていたあこの姿が、露になる。


 そして、しばらく溶かしたところで、あこの体が前方に倒れそうになり……私はそれを、受け止めた。



「っ……」



 あこの体温……温もりが伝わった瞬間、全身の鳥肌が逆立つ感じがした。思えば、こうして触れるのは、それこそ私がこの世界に召喚される前……元の世界で、家族みんなと過ごしていた時以来のことだ。


 この細い体を、思い切り抱きしめてしまいたい。でも、今の私の体は、自分でもどうなっているのかわからない。背中に手を回した瞬間、この手があこの背中を焼いてしまうかもしれない。こうして受け止めることだけが、せめてもの……



「……」



 そっと、あこを地面に寝かせる。細心の注意を払いながら。あこは、眠ったままだ。


 後は、あこを元の世界に帰すだけ。召喚魔法……それを使って。今の私には魔力が残っていないが、それは左目の話。元々私は、召喚魔法だけは使えたのだ。でなければ、私一人でこの世界に戻ってこれたりはしない。


 それに、魔力のない元の世界で召喚魔法を行って、成功した。左目にたとえ魔力がなくとも、私自身が召喚魔法のやり方を再現すれば、問題はないはずだ。召喚には大それたものは必要なく、一番必要なものは召喚主の血。召喚魔法を扱える素質、魔力量を除けば必要なものは、それだけとも言える。


 ただそれだけ、というのは少々説明不足かもしれないが……結局のところ、必要なものはこの世界自体が召喚の大部分を補っている。この世界自体が、召喚魔法に適した媒体なのだ。


 必要なものは、大層なものはない。ドラゴンの肉とか、エルフの耳とか、そんなものはファンタジー要素の多いなものは必要ない。必要なのは、魔力と、血と、そしてなにか、大きな対価。魔力は、私の中に残っている……召喚魔法を行えるだけの、ものが。


 やり方は覚えている、なにも問題はない……準備をしたところで、かすかな声が聞こえる。眠っていたはずのあこが、目を覚ましたのだ。


 あこは起き上がり、辺りを見回す。なにが起こっているのか、起こっていたのか確認しているのだろう。



「……おねえ、ちゃん?」


「!」



 背を、向けていたはずだ……なのに、背中にかけられるのは、あこが私に視線を向けて放ったであろう言葉。


 ケンヤとの戦いのとき、乱入してきたあこに私の素顔は見られた。あのときはどう取り繕おうかと思ったけれど、直後の乱戦からそれはすっかり曖昧になっていた。


 でも、凍らされたあこを見て……いても立ってもいられなくて。あこを助けて、目覚める前に元の世界に帰してしまおうと思っていたのに。それに、なんで顔も見てないのに、私を……



「お姉ちゃん……お姉ちゃん、だよね」



 後ろで立ち上がる、音がする。確認する声は、ほとんど確信を持っているかのよう。足音が、近づいてくる。ダメだ、今の私は、あこに会わせる顔がない……ここから、離れないと。


 なのに、足が動いてくれない。ただ、近づいてくる足音に対して、体は動かない。なんでだ、さっきまであんなに動いていたのに……早く、早くしないと……



「……やっぱり、お姉ちゃんだ」



 ……気づけば、目の前には愛しい(あこ)の顔が、あった。

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