困惑と恐怖
「なんっ……これ、どうなって……!?」
困惑に満ちた、恐怖に満ちた声を絞り出すのは、今目の前で尻餅をついている、ユーデリアだ。
なぜ、先ほどまであんなに偉そうだったのにそんな情けない声を出しているのか……答えは明白だ。尻餅をついてしまった理由、体を支え立つために必要不可欠な足が……なくなってしまったのだから。
正確には切断された、と言うべきか。足はそこに転がっているし。けれど、切断された箇所から血は出ていない……それがかえって、不気味さを駆り立てる。
「ぐっ……いったい、なに、が……」
なにが起こったか理解が追い付いていない……か。それは私も同じだけど、どうしてかどうでもいいと感じる。ユーデリアの表情を見て、あぁ多分痛みはないんだろうなぁ……と思うくらい。
見た目はただの人間の子供だし、さすがに見ていて痛々しいな……さすがに、いきなり自分の足が吹っ飛べば、驚きもするか。
「ぐ、くそ……!」
直後、パキパキと音を立てて、ユーデリアの足の切断面が氷に包まれていく。切断面を凍らせて傷口からの出血を防いでいる……わけではない。そこから出血はしていないのだから。
それは、ただ切断面を凍らせるだけではなく、どんどんと氷が伸びていく。それは、なにか考えるまでもなくわかる……氷の義足が、出来上がる。ずいぶん慣れた様子だな、両足が吹っ飛んだ直後なのに。
……それを見ていて、ふと思い出す。そういやユーデリア、ガニムとの戦いを終えてから姿を現したとき、左足部分がすでに欠損していなかったっけ。そこを、氷の義足で補っていたはず。
人間の姿になったことで、欠損部分が元に戻った……とか。氷狼は伝説の生き物だし、そういうことがあり得ないこともないだろう。それとも、あれは義足じゃなくて氷で左足部分だけを覆っていたか……そうした理由はわからないけど。
他にもいろいろぼろぼろだったはずだけど、人間の姿になったら元に戻っている。……まあ、どっちでもいいか。私にとって、関係ないことだ。
「これならひとまず……」
「無駄だよ」
立ち上がるユーデリアの、今度は左腕へと狙いを定める。先ほどと同じように、宙で左腕部分を握りしめ……振り払う。
左腕は、簡単に吹っ飛んでいく。
「……!?」
両足に続いて、今度は左腕まで。次々と起こる未知の現象に、ユーデリアはやはり理解が追い付いていない。
たとえどれだけ氷の義足、義手を作っても、同じように吹っ飛ばしてやる。
「じゃあ、次は……」
「これはいかん!」
両足、左腕、次はどこを飛ばそうか……そう考えていたが、急になにかに拘束される。手首が、なにかに捕まり引っ張られている状態だ。
見れば、手首を縛っているのは鞭……それもただの鞭じゃない。水の鞭だ。こんなものを使えるのは……
「水の、精霊……」
「っ、なにを……」
「どうやら、のんびりと構えている段階は過ぎたようだ。わらわが今より、処刑する」
今の、私の行為が危険だと判断したのか、傍観していた水の精霊が割って入る。その力は凄まじく、ちょっとやそっとじゃ拘束を抜け出せそうにない。
……あぁ、邪魔だなぁ。
「……なに!?」
次の瞬間……驚きの声を上げるのは、水の精霊だ。なぜなら、私の手首を捕まえ拘束している水の鞭が……黒く、染まっていっているのだから。




