夢物語
「はっ!」
「っ!」
両腕を氷の鎧で纏ったユーデリアが、迫る。今までとは違い、狼の姿ではなく人間の姿だが、迫力は充分。気合いを入れないと、その迫力に呑まれてしまいそうだ。
勢いに乗せ、ユーデリアの氷の爪が振るわれる。それに対し、右肩部分から吹き出した黒い煙……呪術が呑み込んでいく。これはあのとき、ノットの右腕を呑み込んで、それを奪ったときと同じ……
あのときと同じように、ユーデリアの体の部位も奪うのか。その想像は、すぐに裏切られることとなる。
「っ!?」
耳の奥に届くような激しい音を立てて、黒い煙が凍りつく。そして、凍りついた呪術は簡単に、割られてしまう。
「うそっ……」
あれだけ人を振り回しといて、こんな簡単に砕けてしまうのか! とはいえ、あの力はきっと何度だって出てくる。
しかし、次になんらかの反応があるよりも、ユーデリアの動きの方が早い。
「凍れ……!」
ユーデリアから放たれる冷気。それは、私の右肩部分を瞬時に凍らせていく。これは、黒い煙が出てこないようにしたのか?
いや、こんなもので……
「あぐっ、ぅ……!」
なんだ、突然、左目部分が痛みだす。それに、身体中の痛みも徐々に出てきて……
左目は、呪術により黒く染まっていた。その部分が、痛みだした……あまり、いい予感はしない。しかし、今なにが起こっているのか、それを確認する余裕も時間も……
「隙だらけだ、なめてるのか!」
「うっ……!」
右側から振り下ろされる氷の爪が、腕をかすめる。避けはしたが、完全には避けきれなかった……反応が、遅れたか。斬られた箇所が凍りついている。
それに、じくじくとした痛みも……
「なめてるんじゃなきゃ……もう、本当に抵抗できないほどに弱っているのか。なんだか拍子抜けだが……終わりにしてやるよ」
ユーデリアの殺意は、本物だ。それは今さら疑う余地はない。それが、水の精霊が現れたことでさらに、強くなっている気がする。
氷の殺意は、私の体を包み込んでいく。動けない……足を、凍らされたか。それでも無理やり進もうとするが、無理してしまってかその場に転んでしまう。
く、そ……もう、体が……
「せめて最後は……ボクが、とどめをさしてやるよ」
頭の上から、声が聞こえる。それは、この場に漂う冷気のように冷たく、そして鋭い。なんて、冷たく見下ろしてくるのだろう。
「元々、無謀だったんだ……わかるだろ? 世界に復讐するなんて、いくら強大な力があっても個人じゃ限界がある。ボクが言うのもなんだけど……しょせん、夢物語でしかないんだよ」
それは、まるで今までの私の行動を否定してくるような……そんな、言葉。聞きたくない、耳を背けたいほどの言葉な、はずなのに……
なぜだか、心の中に、すきま風のように流れ込んできて……




