氷と炎の結末
魔力を上げる、とはいっても、すでに"魔力解放"によりすべての魔力を解放している状態だ。だから、まあ言い方を変えれば気合いを入れる、というものだ。
気合いを入れても、魔力の量が底上げされるわけじゃない。要は気持ちの問題だろう。それでも、自分に渇を入れるという行為は自らを奮い立たせ、力となる。魔力の量が上昇しなくても、単純に動くための力が上昇する。
「確かにあなたの冷気は、強力だよ。でも……みんなにひどいことをするあなたを、私は許せない!」
目の前の狼は、この国のみんなを氷付けにした。警備隊のみんなを、あんな風に。あのガニムっていう魔物だけ、氷付けにしてくれればよかったのに。
氷付けになっている今は多分、まだ死んでいないはずだ。けれど、それも時間の問題。あの状態のまま放置して、いいわけがない。
一刻も早く、あの氷を溶かしみんなを助ける。そのためにも、あの狼を速攻で倒さないと!
「許せない、か……なら、さっさとボクを倒してみなよ」
余裕の様子を見せる狼は、私の攻撃を避けつつ、反撃も忘れない。彼の場合、全身から冷気を放つことができるから、攻撃のモーションのようなものが見えない。大抵、攻撃を放つ際にはその動きの、モーションがある。
けれど、あの狼からはそのモーションをうかがうことはできない。だから、防ごうにもそのタイミングを見計ることはできない……普通なら。
「……ちっ」
狼の放つ冷気は、私の身に纏う炎に弾かれる。これはある意味、バリアのようなものだ。あの厄介な冷気も、防ぐことはできる。
けど、二つの力は拮抗している。これじゃあ攻撃も防御も、一進一退なわけで……決着を急ぎたい身としては、この上なく望ましくない。
だから、力を上げ……いや振り絞り、あの狼のスピードを上回って、彼が着いてこれないほどの移動速度へと上げて……
「う、りゃあ!」
「! ぐ……っ」
遠距離からの攻撃は防がれて終わり。なら、直接打ち込むしかない。狼の周囲は冷気のバリアがあるけど、私の炎なら打ち消せる。そうして近くまで接近したところで、体に拳を放つ。
氷の鎧を纏っているからか、炎を纏った拳でも触れたら冷たい。それでも、苦しげな声があったから、少なからず効いていると思う。直後に退いたのも、そうだからだろう。
このまま一気に……
「……攻撃が通った。イケる……そう、油断したな?」
「! かはっ……」
……次の瞬間、背中からなにかが突き刺さり、体を痛みが支配していた。痛みに足を止めてしまい、その場に立ち尽くす。
ゆっくりと視線を下げると……胸から、背中から貫通するようにして氷の柱が突き出ている。この場合、氷柱と表現するべきか。
しかも、一本ではない。合計三本が、背中から突き刺さり、貫通して私を捕らえている。
「ボクや、ボクの放つ冷気に意識が行ってばかりで、足元の注意は疎かになってたみたいだね」
「ぁ……っ」
足元の……注、意……?
そうか、この氷柱は、地面から生えてきたものなのか。私の炎で溶けきらなかった、氷の地面から……生えて、私を、突き刺した。
氷の地面は、炎を纏った体ならば歩くだけで、足を進めるだけで溶かすことができる。だから、地面への注意は自然と疎かになっていた……そこを、狙われた。
「こんな、氷……!」
油断した。確かにそうだ。でもこんな氷、すぐに溶かすことができる。傷口は残ってしまうが、それも魔法で回復させてしまえば、済む話だ。
刺された瞬間は意識が飛びそうになってたけど、炎を纏っているおかげで冷たさは感じないし、このまま溶かしてしまえば……
「そうだね、その氷じゃすぐに溶かせられる。キミを数秒程度しか足止めはできない。……数秒足が止まってくれれば、充分だよ」
「な……!」
氷柱を、溶かす。それは簡単にできることだ。それでも、それに対して動きを止めてしまい、隙を見せることには変わらない。
正面から、狼が迫る。氷の角を光らせ、それを、それが……
ズブッ……!
「っ……ぁ……!」
「キミは強いよ。けど……戦闘経験が少ないのが、敗因だ。……これまで魔獣しか相手にしてこなかった経験の少なさこそが、ね」
……魔力の炎が、消えていく……




