【パラレル企画】グレゴを迎えに:後編
グレゴが逮捕されたという警察署にやって来て、グレゴがいるという部屋に入った。そこにグレゴはいたが、呑気にカツ丼を食べていた。
……警察署ってホントにカツ丼出てくるんだ。
「……」
「……誰だね、君は」
「あの、実は……」
目の前の光景に言葉に詰まっている中、私たちを連れてきてくれた警官さんが部屋の中にいた警官さんに事情を説明している。その間、カツ丼を食べていたグレゴの視線は私へと向いている。
じーっ……と擬音がつきそうなほどに見つめてくる。それでも、口はしっかり動かしている。ハムスターみたいに頬を膨らませている。
「あ、グレゴ!」
「エリシア、ちょっと黙ってて」
後ろから顔を出すエリシアを、黙らせる。連れてきておいてなんだが、ここでエリシアに口を出されては話がこんがらがってしまう。
「えぇ……つまり君が、彼の言うアンズ……ということかな?」
そこで、事情を呑み込んだ警官さんが問いかけてくる。うわぁ、警官と話すなんて初めてでなんか緊張するな。
「あ、そ、そうです」
「はは、緊張しなくてもいい。そうか……彼とは、どういう関係で?」
「あー……」
どういう関係、か……そう聞かれても、まさか本当のことを話すわけにもいかない。別の世界があって、彼はその世界の住人。私はその世界に召喚されて……なんて、鼻で笑われて終わる話だ。
ただ、ニュースの様子を見ると、グレゴはもういろいろ言ってるっぽいんだよな。まあ剣星とかなんとか、ここでは意味は伝わらないだろうけど。すでに、妄言を垂れ流すおっさん……という扱いだろう。
「その……親戚、というか……」
「ふむ……いや、わざわざ引き取りに来てくれたんだから、なにか疑っている訳じゃない。ただ、確認をね……」
なんの関係もないおっさんを、わざわざ引き取りに来る人はいない。そう判断したのか、警官の追及はあまり深くはなさそうだ。
しかし、関係性が不明確なのも事実だし、なにかそれらしいこととか……
「んぐっ……っはぁ、うまかった! よぉアンズ、それにエリシアまで! まさかアンズの帰還魔法に、俺たちまで巻き込まれることになるとはな、あっはっは!」
……この筋肉ゴリラはまた、余計なことを……
「え……なに、まほ……巻き込まれ?」
「えぇと、この人ちょっと、頭があれでして! あっははは!」
しょせん、グレゴの発言をまともに取り合う人はいないだろう。言葉自体は、ごまかしが効くはずだ。
「彼のことは私が責任を持って連れ帰るので、ここは……」
「でもねお嬢ちゃん、彼は住所も不明だし、なにより背中に背負ってるモノ……危ないよ。銃刀法違反って知ってるよね? そんなものを持ったまま、素直に帰せはしないんだよ」
う……そうだ、グレゴにはあれがあった。背中に背負っている大剣……場所が場所なら、コスプレですの一言で済んだかもしれないが、ここではそうもいかないだろう。
なにより、警察署に連れてこられる間に抵抗の意思を見せたことが、もう問題だ。まあ、暴れなかっただけよしとしたいが。
「それはまあ……ええと、このグレゴの、趣味っていうか……世間知らずなところがあって。これでもこいつ、18なんで!」
「18!?」
あ、そこに驚くんだ。まあそれもそうか。
その後、我ながら苦しいとも思える言葉でなんとか乗り切り、グレゴを引き渡してもらえることに成功した。住民票がどうのとかって言われるかと思ったけど……
「助かったぁ」
「すまないなアンズ、なんだか迷惑かけたみたいで」
この男は、どのくらい事が深刻だったかわかっているのだろうか。私、胃が切れそうだったよ。
警察署から出て、駅へと歩く。わりかし思い返してみれば、わりかしスムーズに進んだもんだ……
……ホント、スムーズに……
「……スムーズ過ぎない? まさか……」
「えへっ」
エリシア、なんかしたな?
「魔法使えないんじゃなかった!?」
「いや、そうなんだけどね。なんか、グレゴを引き取るのが面倒になりそうだって思ったら……」
……つまり、知らず知らずのうちに警官は、グレゴの出自など疑問に思わないように誘導されてたってことか。精神操作?
なにそれ怖い。
「……エリシア、それ使うの禁止ね」
「えー!」
「当たり前でしょ!」
今回は助かったけど……とは言わないよ。調子に乗るだろうから。
なんにせよ、これでグレゴを連れ帰ることに、成功したわけだ。残るは、ボルゴか。




