【パラレル企画】グレゴを迎えに:中編
逮捕されたグレゴを、警察署へ迎えに行く。その役割は私とエリシアだ、サシェはあことお留守番。あまり大勢で押し掛けるものでもないし、サシェは絶対うろちょろする。かといってエリシアとサシェを置いて、私とあこだけで行くわけにもいかない。
よって、私とエリシア。グレゴが逮捕された先の警察署だが、なんと幸運なことかここからあまり離れていない。せいぜい駅三つ分の距離だ。
学校帰りでの移動は面倒だけど、仕方ない。このまま一日でも長く放置しておく方が、厄介なことになりかねないからな。厄介の種は、早めに摘んでおく。
「じゃ、いってきまーす」
エリシアを連れて家を出る。サシェは最期まで、私も行きたいと駄々をこねていたが、その願いを叶えるわけにはいかない。私は、遊びに行くのではないのだから。
「えっと、ここで切符を買って……」
最寄りの駅に着き、二人分の切符を買う。当然ながらエリシアは、切符をどうやって買うか、そもそも切符とはなんなのか……それを知らないので、私がやって見せる。
切符を買い、それを使って改札口を通り……
「お、おぉ!」
改札口が閉まっていたが、切符を入れると開く。その動きに感動しているようだ。
だいたい、切符を買い忘れて改札口に引っかかる……それが、向こうの世界からなにもわからないこっちの世界に来た人間のベタであるが、あいにくとそんなベタに付き合ってやるつもりはない。なぜなら、目立つから。
今エリシアには、当然向こうの世界の服は着せていない。私の服を着てもらっている。サイズ? ……前に、なぜだか胸が大きくなったことを想定して買った、今のところ着る予定のない服があったから、それを着せている。
杖も家に置いてきたし、格好は目立たない。だが、だからこそ奇抜な行動を取れば、目立つ。とにかく私は目立ちたくない。だから、奇抜な行動を取る可能性は先に潰しておく、これ完璧。
「わー、なにこれなにこれ! おっきい、乗り物……なの? わあ、すごい、扉が勝手に開いたよ、アンズ!」
……ホームに来た電車を見て騒ぎ出すエリシア。集まる周囲の視線。くそ、想定できなかった反応じゃなかったのに。
エリシアに「今からおっきな乗り物が来るから落ち着いてね。興奮しないでね」と前もって言っておいたにも関わらず、この反応だ。ここだけ見ていると、とても成人した私より年上の女性だとは思えない。
……そういえば、向こうの世界でも成人って二十歳からなんだろうか。そもそも成人って概念があるのだろうか。
「アンズー?」
おっといけない、軽く現実逃避していた。周囲の視線が痛いため、エリシアと離れてしまいたいが……それだと一緒に来た意味がなくなるし、なによりエリシアを一人にしたらどうなるか、想像もしたくない。
電車を見ただけでこの反応なのだ。大通りに出たりなんかしたら……
「わー、すごい速い! 景色が、すごい勢いで変わってる!」
「頼むから黙ってお願い!」
電車に乗り、電車は走り出す。初めて電車に乗った子供の反応、と言えば微笑ましいが、その実際は初めて電車に乗った22歳の女だ。微笑ましくもなんともない。
四人用の席に座り、正面ではしゃぐエリシアをそっとなだめる。くぅ、恥ずかしい……!
そんなこんなで、十分くらいの時間がやけに長く感じられた。
「はぁ、着いた……」
「ここにグレゴがいるの?」
「まだだよ、この先……もうちょっと歩いたところね」
うーん、近場と言えば近場だけど、私も来るのは初めてだ。数個先の駅でも、なかなか来る予定なんてないもんね。
さて、と。スマホで警察署を調べて……と。……うん、近いな。
「……エリシア、観光に来た訳じゃないからね」
「! わ、わかってるよぉ」
わかってるならなんだその意外そうな顔は、残念そうな声は。
悪いけど今の私には、観光とかそんな余裕はない。あの筋肉ゴリラを、いかにして連れ帰るか、それだけだ。
本当は18歳だけど、一回り以上老けて見えるあの筋肉ゴリラを迎えに来たのが高校生の女の子で、果たしてすんなりと渡してもらえるかどうか。下手なことをしたら犯罪になりかねない絵面だもんな。
「……着いた」
そんなこんなで、目的地にたどり着く。あまり大きくはないけど、初めて来たからだろうか、実際にものすごく大きく見える。
隣で呆けているエリシアを連れ、入り口にいる警官へと話しかける。逮捕された不審者のことで本人に会いたい、と言うと、困った顔になりながらも通してくれた。
……多分、警官の人も扱いに困ってるんだな。
「失礼しまーす」
案内された部屋、その扉を開けると……そこに一人の警官と、対面するようにグレゴが座っていた。
……カツ丼を、食べながら。




