その力の正体は
あこが、自分の力に違和感を覚える。そして、それを見てケンヤは不敵な笑みを浮かべている。
あこが変だと言うからには、変なんだろう。そしてそれは、私も感じていた……膨大なあこの魔力が、さっきよりも少なくなっている。少なくなっているとは言っても、それは一般に見れば途方もない量だけど。
『魔女』エリシアに匹敵するほどの魔力が、今は感じられない。魔力解放をしたことによって、あこの魔力は膨大なものへと上昇した……それにはおそらく、制限時間がある。
その、時が来た……制限時間が近づき、それにより魔力が少なくなっている。そう考えれば筋は通るが、もしそうならあこ自身が一番わかっているはずだ。制限時間が近づいているなら、わざわざ妙だとケンヤに問う必要はない。
制限時間とはまた別の、なにかにより……あこは、魔力に異変を感じている。
「……ま、そうだよね」
そう呟くのは、あこ本人だ。先ほど、なにかしたのかとの問いに返ってきたのは、それに応えてやるほど俺は親切じゃないとの言葉だった……それはまったく、その通りで。
こちらの知りたいことを素直に教えてくれるほど、親切でない相手だということはわかっている。けれど、その答え自体が、ケンヤがあこになにかした証拠だ。
「……考えてても、仕方ない!」
少しだけケンヤを睨んだあと、あこは再びケンヤへと突撃。制限時間があるならば、一分一秒も無駄にはしたくないはずだ。
繰り出されるあこのパンチは、高速にすら感じる……しかし、それは先ほど見たものよりも速度も力も、落ちているように感じた。
「甘い!」
「っ!」
それを見切ったケンヤは、簡単に拳を弾く。よろけたあこは、ケンヤの反撃を顔面に受ける前になんとかかわすが、バランスを崩してしまったためその場に転んでしまう。
すぐにその場から飛び退いた直後、そこにはケンヤの足が踏みつけられる。一歩遅ければ、顔が踏まれていた……いや、砕かれていた。
「なら、これでぇ!」
飛び退いたあこは、そのまま後退するではなく前後左右に激しく動き、複数の残像を作り出す。あまりの速さにより、分身が作り出されているってことか。
狙いを一つに絞らせず、そうして相手が混乱しているうちに、四方八方から攻めていく……
「なるほど……だけどこうすれば、問題はない!」
対策を考えたらしきケンヤが、その場で思い切り地面を踏みつける。同時に、ケンヤの魔力がケンヤを中心に、周囲へと撃ち放たれる。それは、四方八方から攻めるあこに対して、四方八方に魔力を放ち反撃するもの。
しかもそれは、ドーム状に放たれるため……逃げ道が、ない。
「きゃっ」
分身ごと本体にも魔力が直撃し、あこはその場に仰向けに倒されてしまう。それでもすぐに立ち上がろうとするが、それをさせまいとケンヤが素早く、あこの首を掴み押し倒した。
「あ、くっ……」
「このまま、おとなしくしていてもらおうか」
あいつ、あのままあこを絞め殺すつもりか!?
けど、あこの力ならばあれくらい、簡単に脱出できて……
「くっ……っ……」
「あこ?」
しかし、あこはその場から退かない。素振りは見せているのだから、正確には退けないというべきか……いや、いくら男と女の力の差があるからといって、今のあこの力なら……
……あれ、おかしい。あこの力、いや魔力が、また減っていっているような……
「ぅ……えい!」
「おっ、と」
あこは、思い切り足を振り上げてケンヤを打とうとするが……そうなる前に、ケンヤは退く。解放されたあこは、苦しそうに息を整えている。
「へぇ、まだ動けるのか」
と、笑うケンヤ……減っていくあこの魔力……まさか……
「まさか、あなた……私の、魔力を……吸収して……?」
私と同じ結論に達したあこが、推測を口にする。それは、今や先ほどの打ち合いで、あこの魔力が減っていった理由。
ケンヤには……相手の魔力を吸いとる力が、ある?




