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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄vs氷狼vs……

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二人の攻防戦



 魔力を解放したあこは、ケンヤを圧倒する。スピードもパワーも、ケンヤのそれよりも上であるのは明白だ。私の目から見て、はっきりとわかる。


 ケンヤもとんでもない強さだが、あこの力はそれを上回っている。魔力解放により全身を魔力強化、そのためただでさえ高いあこの身体能力は、さらに向上する。


 ただ、あれほどの勢いを持続できるとは思えない。あんなに魔力を解放しては、魔力が尽きてしまうのも時間の問題ではないだろうか。



「はぁ!」


「っ、く……!」



 だからだろうか、あこの猛攻がだんだん激しくなっている。おそらく、あの魔力解放には制限時間がある……でないと、始めからやらなかった理由がないし、大抵こういうものにはなにかしらのリスクが付き物だ。


 あこの拳は、蹴りは、おそらくまともにくらえば内臓にまで届く威力。それを理解してか、ケンヤは攻撃を受けながらもモロには、まだくらっていない。


 直撃は避け、急所を避けている。あこの速さに完全には対応できていないが、それでも本能的にか大打撃にならないよう反応している。



「う、やぁ!」


「ふっ!」



 あこの拳をケンヤは肘で、あこの蹴りをケンヤは膝で、あこの頭突きをケンヤは両手で受け止め、直撃を回避している。反撃の隙がないほどあこの猛攻が激しいのか……それとも、ケンヤも制限時間の可能性に気づき、時間稼ぎをしているのか?


 そしてそれをわかった上で、あこは全力でぶつかっている。制限時間があるからこその、出し惜しみなし……



「えい……やぁ!」


「!?」



 打撃を放っても、それは致命傷にはならない。それを悟ったあこは、やり方を変える。拳を打ち出し、それをケンヤが受け流す……その隙を狙い、ケンヤの腕を絡めとる。


 しっかりと腕をつかみ、そのままケンヤを背負い投げ。これまで力任せに迫ってきていたあこからのいきなりの搦め手は、ケンヤも一瞬の隙を作ってしまった。



「っ、か……!」



 背中から一気に地面に打ち付けられ、ケンヤは体内の空気を吐き出す。それであこの攻撃が終わることはなく足を振り上げると、無防備となったケンヤの腹部目掛けて鋭く踵打ち落とす。


 それを受けてはいけないと判断したのか、ケンヤは息を整える間もなくその場から回避の選択肢を取る。立って移動できないのなら、横へと転がり直撃を避ける方法だ。


 狙いを定めていた位置からケンヤが移動し、なにもない地面へとあこの踵落としが打ち込まれる。凄まじい音と共に地面には亀裂が入り、爆風が起こり……攻撃の射程範囲外に脱出していなかったケンヤは風圧で吹き飛ばされる。


 しかしただ吹き飛ばされるだけではない。吹き飛ばされながらも体勢を立て直しつつ、ケンヤは己の魔力を展開、手のひらからまるでマシンガンのように連続して魔力の塊を放つ。



「っ!」



 それをあこは回避ではなく、突撃という驚くべき行動を選択肢に移す。突撃……つまり、魔力マシンガンの中に自分から突っ込んでいくということ。そんなの、自殺行為だ……生身ならば。


 今あこは、魔力による身体強化をしている。それで強化されるのは、なにもスピードやパワーだけではない。その肉体に、まるで見えない鎧のようなものを纏い……それは、ディフェンス、防御の力にも特化される。



「! なにっ」



 ゆえに、魔力マシンガンが体に当たっても、あこは痛がる素振りすら見せない。まるで打ち付ける雨の中を走っているような、そんな感覚だ。


 もちろん、魔力による身体強化をしたからといって、みんながみんなあんな防御力を得られるわけではない。身体を強化する魔力、その質や量が上質であるからこそだ。


 しかも、それは見えない鎧のようでありながら、魔力という実態のないものなので、動きが遅くなることもない。むしろ、力が上がれば上がるほど、速くなる。



「そんなんじゃ、効かないよ!」


「ちっ……邪魔、なんだよ!」



 それからは、激しい殴打の応酬だ。あこは言わずもがな、ケンヤも負けじと自らの拳をぶつけている。


 ケンヤが対抗できているのは、少なからず制限時間の期限によりあこの魔力が落ちているのか……それとも、ケンヤがあこの動きを見切り始めたか。



「……」



 それは、今の私が割って入れば間違いなく瞬殺されてしまいかねない光景。満足に動かせもしないこの体じゃ、当然だけど。


 それなりに時間は経ったが、この右腕はまだ動かない。そのうち、全身の血が巡って動くようになると思っていたが……違うのか? くそ、いつまで……!



「くっ、ぅ……!」



 お互いに互角の展開。しかしその動きに、唐突に変化が訪れた。あこの動きが鈍り始め、ケンヤの動きにキレが増してきた。


 まさか、制限時間ってやつがもうやってきたのか? あれだけの魔力を、ただ無尽蔵に使えるはずがない……が、あこの様子だとまだ持ちそうではあった。


 それとも、予想以上にケンヤがしぶとく、魔力が高まっているのだろうか?



「っ、えい!」



 どちらも後退できないほどに激しい打ち合いだったが、一瞬の隙を見つけてあこは後方に飛び、殴打の嵐から離脱。その後充分な距離をとり……不思議そうに、自分の手を見つめている。


 まるで、今の自分の力に疑問でも、あるかのように……



「……なんか、変だ。なにかした?」



 その疑問を、素直にケンヤにぶつける。私は見ているだけだからよくわからないけど、やはり本人だからこそわかるものもあるのだろうか。


 それを受け、ケンヤは笑う。



「さあね、それに応えてやるほど俺は親切じゃない……が、もうお前の力は俺には通用しない」

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