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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄vs氷狼vs……

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【番外編】トリック・オア・トリート



「トリック・オア・トリートー!」


「……何事?」



 とある日の昼下がり、我が妹あこが藪から棒に声をかけてくる。リビングでゆっくりしていたところに、やたらハイテンションなあこがやって来た。



「トリック・オア・トリートー!」



 再び、先ほどと同じ言葉を告げる。その言葉の意味することは、一つ……そしてこの言葉を誰かに投げ掛ける日は、一年に一日、この日だけだ。



「……そっか、今日ハロウィンか」



 あまり気にしたことがなかったから気づかなかったけれど、今日は十月三十一日……ハロウィンだ。なんかニュースとかで、もうじきハロウィンですとか言ってたっけな。


 学校の同級生(だんしども)も、なんか盛り上がってたりもしたな。



「あこ、お菓子ほしいの?」


「そりゃハロウィンだから、お菓子かイタズラかだよ!」



 あこ、あんまり騒がしい性格じゃないのに、こういうイベント事のときはやたら盛り上がるな。学校でもこのテンションだったりするんだろうか。


 ……いや、この子人見知りだし、わりと私にべったりだからないだろうな。家族の前と、友達の前とじゃ違うだろうし。


 昔に比べたら、結構しゃべるようになったと思うけど……それでも、私に見せるような積極性は、まだ人前では出せないだろうな。



「今日は休日とはいえ、まさか昼間っからとはね……」



 ハロウィンである今日は休日で、学校は休みだ。だから、こうして真っ昼間からお菓子をせびりに来たというわけだ。


 うーん、とはいえ……ハロウィンであることが記憶になかったのだから、当然お菓子なんか用意しているはずもない。だからといって、素直にイタズラを受けてやるのも癪だ。



「ウチにあるのはなしだからね!」


「ぐっ」



 ウチの中を探せば、お菓子はあるだろうが……それを見抜かれていたのか、先にあこに釘を刺されてしまう。



「私はお姉ちゃんからお菓子がほしいの! もしくはイタズラ!」



 なにがあこをそこまでさせるのか、わからない。元々私にべったりではあるけど、こういうイベント事のときにはさらにだ。


 まあ、人見知りで自分を抑え込んでいるから、こういうときにパッと発散したい……っていうのは、あるんだろう。


 それならそれでいい。あこのために、コンビニまでお菓子を買いに行くのも苦ではない。ただし……



「それなら私も、トリック・オア・トリート、だよ」


「あ」



 トリック・オア・トリートは、なにもあこだけに許された特権ではない。私にだって、その効力はある。あこがお菓子をせびるなら、私だって。


 あこはきっと、自分のことばかりで自分が言われることなんて想定してなかったはずだ。お互いにお菓子を用意していないなら、この件はうやむやに……



「はい、お菓子!」


「!?」



 完璧だと思っていたものが、一瞬にして崩されてしまった。ポケットから取り出したのは……透明な小袋に入った、クッキー?



「わ、わーい……準備、いいね」


「お姉ちゃんの思考パターンは読めてるからね!」


「あはは……あれ、これ……」



 受け取ったそれは……なんか、違和感。


 この見た目、もしかして……



「手作り……?」


「正解!」


「なんで!?」



 クッキーをただ用意していただけじゃなくて、手作りだって!? どれだけ用意周到なんだよ! あこはお菓子作りが趣味ではあるけど、わざわざこれだけのために!?


 これじゃあ私がコンビニに買いに行ったお菓子をあげても、ただ滑稽にしか映らないんじゃない!?



「せっかくのハロウィンだし気合い入れようかなって。お姉ちゃんも、用意してないんなら仕方ないからイタズラを……」


「……ってやる」


「え?」


「作ってやる! 私だって手作りお菓子作ってやる!」



 このままじゃ、なんかあこに負けた気持ちになる! それはなんか嫌だ!


 私だって女だ、お菓子作りの一つや二つやってやるさ!



「となれば、早速材料買いに行ってくる!」


「いや、私は別にイタズラできればそれで……」



 私の闘争心に、変な火がついた。


 それから近所のスーパーに行き、材料を調べてからそれらを購入。私もクッキーを作ることに決めたのは、あこへの対抗心だったのだろうか。


 で、戻ってきてから調理を始めたはいいものの……



「……うまくいかない」



 スマホでレシピを調べ、その通りに作っているはずなのにうまくいかない。普通にご飯を作ることはあるけど、お菓子なんかは作ったことがない。それでもなんとか形になったのは、こうしてネットがあるから……万歳文明社会!


 なのに、どうしてうまくいかないのか。



「ねえ、お姉ちゃん……これ、形はあれだけど普通に美味しいし……」


「いや、まだ! まだ私はやれる!」



 あこのくれたクッキーに比べれば、味が全然足りない。形もボロボロだし、もっといいものが作れるはずだ!


 その間にもあこには、作った分の試食を兼ねてもらっている。これなら、客観的な味見役と、トリック・オア・トリートのお返しとしてお菓子を上げることもできる。なんと一石二鳥なことか。



「うぅ、口の中パサパサ……んく、んくっ……ぷぁ。うぅ、水腹……お姉ちゃん、もう、もうお返しはいいから……」


「いやいや、まだまだぁ!」



 それからも私のお菓子作りは、続く。始めたのはお昼だったが、外はいつの間にか暗くなっていく……そうした頃やっと、味が上達してきた感じだ。


 うんうん、始めたときよりだいぶ味がよくなってきたかな。これなら、あこも満足して……



「……あれ? あこ、おーい」



 気づけばあこは、大量のクッキーを前にダウンしていた。あぁ……これ、どうしよう。


 その後、帰って来たお母さんに怒られた。夕飯はなかった。

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