戦いの流れ
弱所を見つけ、これでガニムよりも圧倒的に優勢になり形勢が逆転した……そう思った直後、事態はまたも激しく動く。
ガニムの弱所に直接攻撃を当てるには、ジャンプして飛び上がるしかない。そして飛び上がって地面に落下するまでの間、宙に浮いたままだ。飛べもしない限り、急な動きはできない。
そこを、狙われた。落下中のあこに向けて、ガニムが繰り出した膝が、彼女に直撃した。それは、致命傷となり得る一撃……
「あこ!」
思わず、その名を叫んでいた。直後、膝を打ち込まれたあこは後方へと飛んでいく。とっさに腕でガードしたようだが、そんなのはなにもしないよりマシな程度でしかない。
赤い鮮血が空中に飛び散り、あこは落ちていく。意識を失っているのか、受け身をとる様子すらない。
「くっ……!」
あの勢いで地面に衝突すれば、ただでは済まない。なので私は、魔法で風を生み出し、あこへと放つ。風はふんわりとあこの体にまとわりつき、風のクッションのようにしてあこの落下の衝撃を殺す。
……なんとか、落下だけは防げたか。
「アコ殿!」
ガニムにやられたあこを見て、警備隊の人間が声を上げる。今の一連を見て、危機を覚えたのは私だけではないはずだ。あこの所へ、向かっている。
なんにせよ、あこはあの連中に任せておけば良さそうだ。本当ならばいの一番に駆けつけたいが……今は、あの魔族をどうにかするほうが先決だ。放っておけば、意識を失ったあこに被害が及ぶ。
「誰か、傷を癒せる者は!」
「急所はかろうじて守ってる、さすがだが危険だ!」
向こうでは、早くも治療の準備が進んでいる。国を守る警備隊だ、回復魔法くらい一人や二人、使えるだろう。死んでいなければなんとでもできる。
この国の人間は、あこのことを必要な人間として……いや、純粋に信頼しているようだし、危険はない。
だから今、私がすべきことは……
「ふん、無駄なことを。今度こそ踏み潰して……」
「お前の相手は、私だよ!」
「ぐぅ!?」
警備隊の人間もろともあこを踏み潰そうとするガニムに向けて、弱所に攻撃を撃つ。先ほど弱所を突かれたことも忘れるほど頭に血が上っていたのか、そこを防ぐことなく素直にくらってしまう。
痛みに震え、狙いはずれてしまい見当違いのところへ、足を踏み落としてしまう。
「ぐくっ、この……!」
「こっちも忘れるな!」
ガニムの怒りの炎は、吹き荒れる氷の嵐によって凍りついていく。凄まじいスピードで、弱所に向けて突進、そこを鋭い角で抉るユーデリアだ。
あれは……痛いだろうな。しかも、あの突撃は私と戦っていたときに見せた、恐るべきスピードのそれだ。あれを見切るのは、なかなか骨が折れる。
「ぐぁあっ……!」
弱所を抉られてか、ついにガニムが悲鳴を上げた。今まで何発も攻撃を加えてきたが、この反応は初めてだ。見ていて爽快な気分。
さらに、ユーデリアの攻撃はそれだけに終わらない。
「くらえ……!」
「ぐっ!?」
角の先端から、冷気が放たれる。元々あの角は、冷気の塊だ……そこからさらに冷気を放たれれば、それは冷たいどころの話じゃあないだろう。
苦痛に歪むガニムの表情……しかし、やられてばかりでもない。
「この、離れろ!」
「!」
だが、危険察知能力が高いためか、反撃の拳も難なくかわされてしまう。こうなってしまえば、身軽に動けて絶えず冷気を放ち続ける氷狼は、手強い。
弱所が判明したことで、攻撃の手段は増えた。あそこを集中的に攻撃すれば、遠くないうちに倒せる。あこが戦線を離脱したのは手痛いが、それでも……
あの腹の立つ顔に、好き勝手してくれたツケを叩きつけてやる!
「はぁっ……本当に厄介だよ、『英雄』」
ガニムとしても、弱所がバレてしまったからにはそこを庇いながらの戦いなる。それにより、おのずと行動も制限されるはずだ。
流れは、こちらに来ている。




