形勢逆転……?
「ぐぅ、う……」
「!」
苦痛を受けたが、すぐに立て直した一瞬の変化……それが、崩れる。耐えていた痛みがぶり返してきたのか、再び表情は、いや先ほど以上に明らかになって表れる。
「え、なになに」
「痛がってる……?」
それには、あことユーデリアも気がついたようだ。ガニムに明らかな変化が訪れたことを。それがなにを意味するかは、まだわかっていないだろうが。
私のこの左目……『魔女』の目でガニムを見た。すると、一ヶ所だけ光っている部分があった。そこを魔力の塊で攻撃した結果が、これだ。
なにか、攻撃が通用する箇所はないかと探してはいた。その気持ちに答えてくれたのかはわからないが……見えた光は、ガニムの『弱所』だ。つまり、その中でも特に脆弱な部分。
それは、これまであらゆる攻撃をものともしなかったガニムの様子から明らかだ。あの部分が、ガニムの弱い部分……
「今のは……貴様、か!?」
攻撃を受けた当のガニムが、犯人探しを始める。まあ犯人探しって言っても、容疑者は三人しかいない……注意を払っていたあことユーデリアを除外すれば、残るは一人だ。
ガニムが、自分の弱所を知らないはずがない。二人を相手にするときも、そこに攻撃が当たらないようにしていたはずだ。私のことを完全に意識から切り離していたわけではないだろうが、細かい動きまでは見ていなかったか。
「へへ、ざまーみろ」
べ、と舌を出してやる。これまで偉そうにしていた、せめてもの仕返しだ。それを見たガニムは理解したのか、怒りの形相を浮かべる。
「この……くそガキ……」
「よっ」
ガニムの巨大攻撃が来る……前に、私は小さな魔力の塊を作りそれを撃つ。小さいそれは、威力は先ほどのものより低い代わりに、先ほどのものよりも速い。
攻撃を当てたその場所へ、左目が光を伝えてくれるその場所へ、攻撃は着弾する。
「ぐっ、おぉお!」
弱所となるその箇所に、二度目の衝突。威力はさっきのものよりも低いはずだが、衝突したその反応は先ほどよりも大きい。油断していた……ってのはさっきの方がそうだろうし。
傷口に立て続けに衝撃があれば、すごく痛い……それがたとえ弱いものでも。そういうことだろうか。
「また、効いてる?」
「どういう……」
「二人とも、今私が攻撃したのが弱所……ガニムの弱いところだよ!」
「貴様っ……!」
なにが起こったのかわからないといった二人に、要点だけを摘まんで説明する。その説明だけで、充分だろう。
ガニムは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、もう遅い! 本人にとっても、それがバレることは痛手だろう。これまで遊び半分だったこの戦いを、早々に片付けようと思ったはずだ。
だが、それを受けてからのユーデリアの行動は早い。ガニムが次になんらかの行動を起こす前に、強力な冷気を発生させてガニムの全身を冷気で覆い、動きを凍らせる。
規模は大きくても、ガニムが力を込めれば簡単に砕けてしまう氷。しかし、それでもガニムの動きを鈍らせるには充分な時間で。
「たりゃあ!」
示しあわせたわけではない。けど、ガニムの動きが止まった瞬間、飛び上がっていたあこは……私が弱所だと示したガニムのそこに、拳からの一撃をくらわせた。
それは私が試しにくらわせた魔力の塊よりもはるかに強力な、重い一撃……!
「ぐっ、ぁは……!」
「!」
そこに拳を打ち込まれ、ガニムが苦痛に歪む表情を見せる。あこも驚いた表情だが、それはやがて笑みへと変わっていく。ともかく、これで形勢逆転だ……!
「ホントだ、ホントに効いてる! なんで、わかったんです!?」
「ええと……」
なんでわかったのかという問いかけに、私はすぐには答えられない。それはそうだろう、他人から抉り取ったこの左目に光が映って、そこが弱所だとわかった……なんて説明できるはずもなく。
とはいえ、なんとか納得させられる言い訳をすぐに思い付くわけもなく……
「! 危ない!」
「え……!?」
直後、ガニムの繰り出した膝打ちが、あこに正面から衝突した。




