三者三様
ユーデリアの冷気が、私の魔力が、ガニムの腕力が、それぞれぶつかり合っていく。激しい音を立て、周囲へと影響を及ぼしていく。
壊れ、崩壊しつつある結界はあと数分も形を維持できない……完全に消滅してしまうだろう。一部壊れ、そこから全体が壊れていく。一瞬で結界の全部が壊れないのは、それでもエリシアの魔力の高さがあるためだろうか。
そのため、すぐに外に異変が伝わる心配はない……が、戦闘が激しくなれば、力を高めていけば、それだけ気づかれる可能性も高くなる。
できれば迅速に、あまり力を行使せずに終わらせたいが……
「ぬぅ、おぉ!」
「くっ」
打ち付けられる拳に、体を纏う冷気。魔力で身体機能を底上げして、かわしていく状態だ。ユーデリアは体に冷気の鎧を纏っているかのような状態、その上に遠距離からの攻撃も可能。
ガニムは、大柄な体に似合わず素早い動き。今のところ魔力も感じられず、その素の力のみで向かってくる。その勢いは、師匠に匹敵するかもしれない。
生き残りの氷狼、そして生き残りの魔族。氷狼についてはその過去を見た、問題は魔族だ。魔王を討ち倒した結果、すべての魔族が消滅した……はずなのに、現に魔獣は存在していた。そして、こうして魔族も。
単に、すべての魔族が消滅したわけではないのか、それとも他の理由があるのかはわからない。まあ……
「それを今考えている暇はない、か……!」
動きは直線的、魔力や呪術のような搦め手を使うわけでもない。そう考えると、暗殺者であるノットの方がずっと戦いにくかった。もし"あの人"繋がりなら、ノットとも仲間だったのだろうか。
ノットよりも行動が読みやすい……が、先ほどのようにまた足が動かなくなる現象が起こるかもしれない。油断は禁物だ。
それに……
「ガルルルァ!」
「っ!」
撒き散らされる冷気が、視界の邪魔をする。風に乗って降り続ける雪、それは視界と、そして体温を着実に奪っていく。
周囲に異変を察知されないことも含め、どのみち、短期で決着をつけないといけないってことか!
「っと!」
パチンッ
ユーデリア自身に、呪術の炎は通用しない。が、私の体にまとわりつく冷気ならば簡単に燃やすことができる。
ただ、決定的な一撃が見つからない。それさえあれば、ユーデリアを沈めることも……
「っ、その炎は……」
そこへ反応したのは、別方向から襲いかかってくるガニムだ。この炎……ノットの炎に反応するってことは、やっぱり二人は知り合いだったか。
それにこの右腕の凍傷は、今できたものではない。わかる人が見れば、これがずいぶんと前に刻まれたものだとわかるだろう。氷狼の村を襲ったときに刻まれた、あのときの。
「……!」
しかし、ガニムの驚愕はそこまで。見開いた目を細め、拳を振り抜いていく。それは、怒りに身を任せた……ようなものではない。
驚きはあっても、怒りはない。それが、今のガニムの心情に思えた。
「まさか本当に、あいつの炎を使うとはな……気持ちの、悪い!」
「くっ!」
振り下ろされる拳を、受け止めるでなく受け流す。魔力の盾も破壊する威力で、すでに三発もらっている。今だって避けながら少しずつ魔法で回復しているが……もう一発まともに受けたら、動けなくなる。
それにしても……本当に、とはどういうことか。気持ち悪いってのは、まあ私自身もそう思っていることだし、否定はしないけど。本当に、ってのは知ってないと出てこない言葉だ。
私がノットの腕を手に入れたのは、ノットと戦ったとき。それ以降、やたらとこの力は使っていない。
……ってことはこいつ、あの戦いも、どっかから見ていたってことか?
それにしても、こうもタイプの違う相手が、二人いっぺんに襲いかかってくるってのは……
「ああもう、やりづらいな!」




