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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄が生まれた日、英雄が死んだ日

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第41話 奪われた世界



「……ぁ」



 混乱する私の目の前に現れたのは、お母さんでもお父さんでもあこでもなく……叔母さんだった。


 こうして顔を会わせるのは、やっぱり一年ぶり。叔母さんは、まるで信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開いている。


 当然だろう。一年も姿を消していた人物が、突然目の前に、それも家の中に現れたのだから。



「……杏、ちゃん?」



 そこで、ようやく叔母さんの口が開いた。動揺していたが、どうやら私のことを私であると理解してくれたらしい。


 その瞬間だ……私は見逃さなかった。叔母さんの表情が、変化するのを。それは安堵や心配もあったろうが、それよりも……



「ひ、久しぶり……って、言うのかな。あの、叔母さん、その、聞きたいことが……」


「今まで、どこに行ってたの?」



 なんとか言葉を絞り出す私の質問を遮り、叔母さんから出てきたのは当然の質問だ。私を探してくれていたのは、お母さんやお父さん、あこだけではない。


 きっと今まで、たくさん……それこそ必死に私のことを探してくれていたのだろう。だから、私も真摯に答えないといけない。


 はずなのに……考えていた言葉が、出てこない。頭の中に描いていたはずの答えは、口から出る前に頭の中で消えてしまっていた。


 家の中の、この異様な環境が……私の頭から、思考をすべて奪ってしまっていた。



「え、っと……じ、つは……」



 異世界に行っていた、なんて元々話すつもりはなかったし、信じてもらえるなんていうのも思わない。だけど、決して私が自分からどこかに行ったわけではないと、それは伝えるつもりだった。


 だけど、今は明らかに……嘘なんて、通じる雰囲気ではない。それに、たとえ本当でも、嘘みたいな話を言える雰囲気でもない。


 元々怒られる前提で用意していたいろいろな答えがあったが……それは、甘い見立てだった。こんな光景を見せられて、相手を納得させる答えなんて出てくるはずもない。


 だから……なかなか話さない私に、叔母さんがイライラするのも、当然だ。自分がなにをすればいいのかも、わからない。



「答えられないの? 誘拐、じゃないわよね、あなたの雰囲気からして。事件に巻き込まれたわけでもなさそう。……義兄さんとあこちゃんは、いなくなったあなたを探している最中、事故で死んだのよ」


「……ぇ」



 だからあまりにも、その言葉を当たり前のように受け流してしまいそうになっていた。



「死ん……えっ?」


「仏壇、冗談で置くわけないでしょう。あなたが帰ってくる日に備えて、そんな趣味の悪いサプライズは用意しないわよ」



 冗談にしては、確かにたちが悪すぎる。けれど、その真実を伝えられるには、あまりにも心の準備ができていない。


 呆然と立つ私に、叔母さんはさらなる追い討ちをかける。



「それに、来る日も来る日もあなたを探して、義兄さんとあこちゃんを失って、姉さんは……」



 先ほどまで饒舌だった叔母さんが、一瞬口ごもり……しかし、次の瞬間には強い目を向けて、こう言った。



「姉さんは、心が壊れてしまった。家族を一気に失ったせいで、精神を病んでしまった。全部、あなたのせい……あなたが、家族を壊したの。私は、あなたを許さない」



 叔母さんは、これまでにないほどの憎しみの目を私に向けていた。それは、この世界ではもちろん……向こうの世界でさえ、今までに向けられたことのない瞳だった。



「あ、の……病んだ、って……? 入院? どこに、入院して……」


「さあ。自分で探しなさいよ」



 もう、あなたとはなんの関係もない。そんな気持ちが、向けられる。質問しても、それの答えが帰ってくることはない。


 冷たい、とは思わない。私が、それだけのことをしてしまったのだとわかってしまったから。叔母さんの言葉に、嘘偽りがないことがわかったから。


 私を……いなくなった私を探していたために、お父さんとあこは事故に遭い死んでしまった。その死に目にすら会えず、ただ口頭で伝えられ、今こうして仏壇を目にしたのみ。


 お父さんとあこ、そしていなくなった私の、家族三人を失い……お母さんは心が壊れてしまったと。今、たった一人で入院している。加えて、私は叔母さんの……いや、親類すべての信頼を失った。


 それに……ついぞ叔母さんは、最初の一度以外、私の名前を呼ぶことはなかった。結局お母さんの入院している病院を知る手段も、叔母さんのあとをつけることでしかできなかった。


 たとえ車で移動しようと、異世界で驚異的な身体能力を手に入れた私にとっては並走できるに等しいものだったから。たとえ辺りを注意しようと、私は気配を消して、追いかけた。


 異世界に召喚されたせいで失った大切なもののある先を、異世界に召喚されたために得たスキルを使って知ることができたなんて……皮肉以外のなにものでもない。


 そして、お母さんが入院している病院にたどり着き……私は、現実を打ち付けられた。残酷な、現実を。


 家族を失い、娘の私のことすらわからなくなった母の姿。異世界で魔王を前にしたときなんかより、異世界で仲間を失ったときよりも……よっぽど容易く、心が折れた。


 私のせいで、私を探していたせいでお母さんは……こんな姿に、なってしまった。お父さんは、あこは……私の、せいで……死んで、しまった。


 私の…………私の、私の私の私の私の私の……私、のせいで……?



『違う、私のせいじゃない……あの、世界のせいだ』



 自分の中に、黒い感情が、渦巻いて……自分の中で、誰かが囁き、黒いものはどんどん大きくなっていく。

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