第40話 旅の終わりと絶望の始まり
魔王討伐が中途半端で終わったって?
いえこれは、こういう構成で大丈夫なのです!
……魔王討伐の旅。それは数々の出会いがあり、そして同時に別れもあった、つらい旅であった。
魔王の下へとたどり着くまでに一人、魔王を守る四天王との戦いで一人、そして魔王との戦いで一人……計三人が犠牲になった。
……『弓射』サシェ・カンバーナ
……『守盾』ボルゴ・ニャルランド
そして……『剛腕』ターベルト・フランクニル。私の師匠であった人も、最後の戦いで命を落とした。あんなに強かった人も、死んだのだ。
大きな犠牲を払いながら……それでも、私たちは魔王を討ち倒した。そして私は、魔王を倒した勇者パーティーを率いたとして、『勇者』から『英雄』として称えられた。別に率いたわけじゃないんだけどな。
一緒に旅をした仲間とは、旅を通じて固い絆で結ばれた。つらいことばかりの旅だったけど、その中で得たものも、確かにある。
……私がこの日まで頑張ってきた理由は、元の世界に帰るためだ。いや、だった。この世界を救いたいと、本気で思ったのはいつからだったか……その思いは、嘘じゃない。失くなった仲間の思いも、繋いできた。
どちらに優先度をつけるなんて、もうそんなことはできなくなっていた。それほどまでに、この世界での暮らしは私の中で大きくなってしまった。
この世界にいたその期間、ざっと一年。長かったような、あっという間だったような。でもきっと、お母さんもお父さんも妹も、他にもみんな、心配しているに違いない。
この時をどれほど、待ち望んだだろう。この世界での役割、魔王を倒すことを果たした私は……ついに、元の世界に帰ることが叶った。
多分、どこに行ってたのかとか、たっぷり怒られるんだろうな。もしかしたら、警察に捜索依頼を出してるのかもしれない。いや、一年なら間違いなく。
信じてくれないだろうな……異世界に行ってたなんて。そんな夢物語のようなこと、きっと誰も信じない。これは、私の胸の中でしか生きていない経験だ。
ほぼ……いや完全に強制的にこの異世界『ライブ』に召喚され、魔王を倒す使命を言い渡されて……今日まで、この世界で暮らしてきた。もうここに来ることは、ないだろう。
さすがに感慨深くもある。ここへは深入りしないつもりだったのにな。
「じゃあね、みんな」
グレゴに、エリシアに、ウィル……いろんな人たちに見送られて、私は元の世界へと帰還する。
そう……私はやっと、元のあの平和な世界に帰ることが……
「…………」
……平和な世界に、帰れたはずだった。そこは、私を優しく受け入れてはくれなかった。
――――――
「……戻って、きたんだ……」
召喚から帰還のための光に包まれ、足元から全身に向け白い光が……やがて視界をも包み込んだ。この世界に召喚された時と、同じ現象だ。そして……次に視界が開けたのは、見覚えのある風景だ。
向こうの世界にはない、コンクリートの建物……アスファルトの地面、道を走る車……間違いない、ここは私の、いた世界だ。
ついに戻ってきた元の世界……元の、あの時の場所だ。私の気持ちは、自然と昂っていた。ようやく、ようやく家族に、会えるのだ!
「みんな……私、私、帰ってきたよ!」
元の世界に戻り、真っ先に向かったのは実家。自然と、走る。同時に、服のポケットの中を確認する。うん、ちゃんと鍵はある。
幸運にも向こうに呼び出された時には実家の鍵を持ったままだったから、家に入れない心配はなかった。向こうの世界に行ってからは、元々着ていた服とかは大切に保存してたしね。
召喚されてから、一年の期間が空いている……こっちの世界と向こうの世界の時間の流れが同じかそうでないかとか、細かいことはわからない。でも、まずは無事を伝えないと。
「ただいまー……」
実家に戻り……そこで私は、怒られる覚悟はしていたし、でも最終的には優しく受け入れてもらえると、そう信じていた。
……それなのに。
「……え?」
驚くほど静かな家……返ってくる声はなく、ただただ静寂がそこにはあった。いつも通りなら、誰かが迎えてくれると思っていたのに。
鍵はちゃんと閉まっていたし、三人とも、どこかに出掛けているのだろうか? そうであるなら、帰ってくるまで家の中で待っておく? それとも外で?
そう考えながらも……足は自然と、進んでいた。とにかく、家に帰ってきた実感が、ほしかったのかもしれない。
玄関、リビング……あぁ、あの時のままだ。私がいなくなった、あの時と……それに、和室も……
「……え?」
そこで私が見たのは、到底信じられないものだった。和室にあったのは……仏壇だ。なんで、仏壇? 仏壇なんて、和室に……いやこの家になかったはず。近づく……そこには、写真が立ててある。二つだ。
……あことお父さんの写真が、そこには立ててあった。
「…………は?」
理解が追い付かない。なんで、こんなものがあるのか……もしかして、私が帰って来た時のためのドッキリ? ……さすがに、こんな冗談、趣味が悪すぎる。
でも、だとしたら……
「ねえ……お父さん! あこ!?」
そんなはずはない。最悪な想像を振り払い、家中を探す。いない、いない、いない、いない、いない……胸の奥を、黒いものが支配していく。気が狂いそうだ。
ガチャ……
その時だった、玄関の扉が、開く音がした。誰かが、帰ってきたんだ。いったい誰が……いや、そんなことを考えるのはあとだ!
私は、期待に胸膨らませて、玄関へと急ぎ走る。玄関の扉の向こう側……そこにはあこが、お父さんが、お母さんが……!
「……誰?」
……そこにいたのは、私が待ち望んだ誰でもなくて。
「……おば、さん?」
それでも、この状況説明してほしい誰かであったのは事実だ。玄関の向こうにいたのは、叔母さん……お母さんの、妹だ。
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