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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
もう一つの異世界召喚

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【追憶編:上】滅びの道



 少し時を、(さかのぼ)る。これは、ケンヤがガルヴェーブを連れ、城を出ていった後の話……



「き、消えた……?」



 突然の事態に、周囲は混乱していた。中でも、その混乱が一番大きいのが……ガルヴェーブを傷つけ、彼女がマド一族であるとバラした張本人、サーズだ。


 透明になり、姿を消すだけでなく魔力も感じさせない能力を持つ……それを利用し、ガルヴェーブを一方的に追い込み、この城に住む魔族たちにガルヴェーブの正体を教えてやった。


 あのまま、状況が続いていれば……きっとガルヴェーブは、死んでいただろう。それほどまでに、魔族たちがマド一族に対して抱く憎しみは大きい。城の魔族総出で袋叩きにして、表に吊し上げ、残酷な死を与えただろう。


 だが、それを邪魔したのが……そのガルヴェーブがこの世界に呼んだ人間、ケンヤだ。彼は魔族でないどころか、この世界の人間ですらない。だから彼が、この世界のことについてなにも知らない彼が、ガルヴェーブを守ろうとしたのは当然かもしれない。


 ガルヴェーブは、自ら自分がマド一族であると、ケンヤにだけ話した。だがその部屋の外では、気配を遮断したサーズが話を盗み聞いていた。


 本来気配や魔力察知には並み以上の能力があるガルヴェーブだが、サーズの透明化能力は姿を消す以上に、魔力を消す力がある。これは、誰にも話していない力だ。魔力が消せるなんて、そんな芸当誰もできない。四天王や魔王でさえもだ。


 その能力を利用し、すべてはうまくいくはずだった。元々ガルヴェーブは気に食わなかった。すべてを見透かしたような顔をして、かなりの実力を持っているくせにそれを鼻にもかけない……それが、癪に障った。


 謙遜は、人間の間では行きすぎるものは嫌みだが、基本的には美学として扱われる。だが、魔族にとって美学なんてものは存在しない。力を持つ者は偉ぶって当然……それをしないガルヴェーブは、言ってしまえばいい子ちゃんだ。


 それを気に食わないと感じていたのは、なにもサーズだけではない。とはいえ、ガルヴェーブとまともにやりあっても返り討ちにあうだけ。彼女の戦意を折った上で、多数で仕掛ければ、大きなチャンスとなる。


 ガルヴェーブを失脚させ、それどころか殺してしまえる……こんないいことはない。だから、それを行うにあたってマド一族だという情報は、これ以上ない後押しだった。


 あとは、少し痛め付け、彼女の正体をバラせば、勝手に破滅してくれるはずだ。そう、これが完璧……そのはずだった。



「くそっ……!」



 しかし現実は、そううまくはいかない。この城の魔族すべてならば、たとえケンヤが邪魔してきても問題はないと、そう思っていた。


 こうして、二人の姿が消えてしまうまでは……



「まさか、私と同じ……?」



 姿は見えない、気配もない……それはまさに、サーズの透明化と同じ現象だ。二人も、どこかに透明となり隠れているのか。


 それとも……あのときの二人は、黒い光に包まれていた。あんな現象、サーズは知らない。これが透明化でないとするなら、まさか二人は、どこかへ移動でもしたというのか。


 高い魔力があれば、移動……瞬間移動のようなことは、できる。だがケンヤにそんなことはできなかったはずだ。こんな土壇場で、都合よくそんな力が目覚めたとでも?


 ……これは想定外。もし瞬間移動でどこかに行ったとするならば、その場所はわからない。見つけようにも……



「おいおい、どうするんだ?」



 一つの声が、降ってくる。



「あの人間……ケンヤ様は、勇者が攻めてくる際の対抗戦力なんだろ? なのに、その戦力がここから消えたって、どういうことだ!」



 なにが起こったのか、理解している者はいない。だが、それまでの行動をたどれば、自ずと道は示されるのだ。


 ケンヤはガルヴェーブを守るため、彼女に手を伸ばし……繋いだ二人は、黒い光に包まれた。ケンヤがガルヴェーブを守ったのは、袋叩きにあっていたから。その理由は、彼女がマド一族だったから。


 なら、彼女がマド一族だと言ったのは? ……それはそう、そこにいる……



「サーズ、お前のせいなんじゃないのか?」


「……はぁ?」



 彼女がいなければ、ガルヴェーブがマド一族であるとバレずに済んだ……彼女がいなければ、ガルヴェーブが傷つくことも、それを見たケンヤが飛び出すことも、なかった。


 ケンヤがここから消えることも、なかった。



「やぁ、なに言って……だいたい、あんたらだって……」


「ガルヴェーブがマド一族……その証拠はあったのか? 適当こいただけなんじゃないか?」


「お前はガルヴェーブを嫌ってたしな。その腹いせだったんだろ」


「あーあ、お前のせいでケンヤ様が……こりゃとんでもないことだぞ」



 なんだ、これは……なんなのだ、この状況は。


 さっきまで、ガルヴェーブに罵倒を浴びせていた魔族たちが……今はサーズに、その矛先を変えている。サーズを非難し、責め立て、追い詰める。



「……は、ぁ? いや、おかしい、だろ……」



 さっきまで、自分たちは同じ気持ちだったはずだ。気持ちは一つに、なっていたはずだ。それがどうして、こうなっている?


 勝手だ、身勝手すぎる。都合が悪くなったら、責任を押し付けて。なんて変わり身の早さ、意地汚さ。信じられない。信じられないのに……サーズも、同じ事を思っていた。



「私の……せいか?」



 ここで、ケンヤがいなくなれば……魔族は、一気に滅びの道をたどる。それがわかっていたからこそ、サーズにも自身への疑念が生まれる。


 まさか、ガルヴェーブを庇って、ここからいなくなるなんて思わない……けれど、結果だけを見れば、サーズの行いが魔族の滅びの道を作ったとも言えるのではないか。


 ……そしてそれは、現実となる。

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