第36話 ボルゴ・ニャルランド
目の前で衝撃的な光景が、いくつも広がった。
ボルゴの盾が恐竜型の四天王に破られ、その角にボルゴが串刺しにされ、恐竜型の体のあちこちから血が吹き出し、ボルゴの体が大きく発光している……
あまりの事態に、頭がついていかない。かろうじてわかるのは、ボルゴはまだ生きているということ……
そして……
「ぐぉ、おおぉ!?」
ボルゴの体の発光の輝きが増すにつれ、恐竜型の体からはどんどん内側から破壊されていく。硬い皮膚は、内側から簡単に打ち破られ、苦しそうに唸り声を吐く。
あの輝きと、恐竜型のダメージは、無関係ではないということだ。
「ボルゴ!」
恐竜型が弱っている、今がチャンスだ。まだ息のあるボルゴに必死に呼び掛け、意識に訴えかける。
見るも痛々しい傷だけど、まだ生きているならば……エリシアの魔法で、回復させられる! 今回は、彼女の魔力も充分に残っている。だから、助けられる。
その思いから、ボルゴへの呼び掛けは次第に大きくなる。意識を強く持って、あと少しだから……と。
だけど、ボルゴは私の声に、エリシアの声に反応しない。先ほどは、確かに小さく呻き声をあげていたはずなのに。
ここから見えるボルゴの瞳には……もう、生気を感じられない。虚ろな瞳で、ただ一点……恐竜型だけを見ている。それに呼応するように、光の輝きは増し、恐竜型の傷も増えていく。
まさか、ボルゴの放つ、あの輝きの正体は……!
「き、ざまっ……このオレの、与えたのと……同じ、ダメージを……!?」
ついには吐血し、自らの角に貫通するボルゴを睨み付ける恐竜型。その口から出たのは、私が考えているのとおおかた同じもの。
あの光は、ボルゴの力。原理はわからないけど、自分が受けたダメージを……そのまま、相手に跳ね返すというものなのではないか。いや、厳密には……跳ね返すんじゃなく、丸々同じダメージを与える。
それがボルゴの意思によるものなのか、無意識下のものかはわからない。けれど、そうとしか考えられない。
ボルゴが受けたダメージとそっくりそのままのダメージを、相手にも与える……どれだけ皮膚が硬かろうが、関係ない。受けた分……例えば、致死量のダメージを受けたならば、同じ分のダメージを……
「げ、ぼぉ!」
恐竜型はついに、口から大きな血の塊を吐き出す。その体はすでに倒れ、もはや虫の息だ。
同じ分のダメージを与える、ということは……ボルゴも、同じだけの傷を負っているってこと、になる。言ってしまえば、この恐竜型が死んだとき、ボルゴも……
「そんなの、ダメ!」
角に貫かれたボルゴを救出するため、私は……恐竜型の長い角に、拳を打ち込む。すると、角は簡単に砕け折れてしまう。
「ぎ、ぁああぁあ!?」
殺傷力は高くてももともと脆いものなのか、それとも弱っているため脆くなったのか……そんなことはどうでもいい。
折れ、未だ突き刺さったままの角をエリシアが魔法で消滅させる。それによりボルゴは解放され、地面に落ちる前にキャッチ、救出に成功。
その体は、重い。冷たく感じているのは、私の気のせいだろうか……どっちでもいい。私は嫌な汗が流れるのを感じつつも、そっとボルゴの口元に耳を寄せ……呼吸を確認する。まだかすかに、息がある。
「エリシア、早く回復魔法を……!」
「うん!」
今ならまだ、助けられるかもしれない。ボルゴを地面に寝かせ、急いでエリシアが治療の準備をして……
「ぶっ……!」
苦しんでいた恐竜型が、糸が切れたようにその巨体を地面に倒す。それは、エリシアの魔法の光がボルゴを包む、ほとんど同時……
ぞくっ……と、嫌な感じがする。心臓がうるさい、もう一度、ボルゴの口元に耳を寄せる。呼吸を、確認する。
確認して、確認して、確認して……
「息……してない」
「ぇ……」
つい先ほどまで、かすかでも息をしていたのに……今は、呼吸を感じられない。
大きく穴が空いた体を見る。胸元に、耳を当てる。心臓の動きは聞こえない。体が冷たい。生気を、感じない。
本能が、察した。ボルゴは、もう……
「いや、そんな……うそ、だよ……だって、だって……」
「アンズ……」
認めたくはない。でも、サシェの死を間近で見た私には、わかってしまった。
ボルゴはもう、死んでると。
「こんな……あっ、さり? お別れの、言葉も……まだ……」
「……う、ぅ……」
ボルゴを包んでいた光が消え、エリシアの膝が折れる。呆然とし、現実が追い付いてきたのかその瞳からは涙が流れている。
また、救えなかった……目の前に、いたのに。私は、私は……
「はっはぁ、死んだか! 愉快愉快!」
この、耳障りな声は……あぁ、師匠が相手をしている、ゴリラみたいな魔族か。
「貴様、黙れ!」
「所詮は人間、所詮は雑魚。だが、ただ一人しか道連れにできんとはあいつも使えんなぁ。安心しろ、このワシが貴様らを同じ所へ送ってやる!」
師匠と張り合っているゴリラ型は、好き勝手なことを言っている。ボルゴを侮辱した……それだけで、もう、充分だ。
「あ、アンズ……?」
「おぉん? なんじゃ貴様」
気づけば私は、ボルゴの側を離れ……師匠と組み合っている、ゴリラ型の所へと行っていた。師匠も、困惑したようにこちらを見ている。
そしてゴリラは、腹の立つ笑みを浮かべている。
「ふはは、なんじゃお仲間の敵討ちか? 言っておくが、貴様のようなか弱い人間、加勢に加わったところでワシが不利になるとでも……」
「黙れぇえええ!!!」
怒りも、悲しみも、全部が私の中で渦巻いて……その全部を、拳に込めてゴリラ型にぶつける。
まるでトラックが衝突したような激しい音が鳴り……拳が直撃したゴリラ型は、なにを言い残すこともなく、跡形もなく消し飛んだ。
「……アンズ、お前……」
「う、うぁああああああ!!」
降りだした雨が、腹の底から叫ぶ私の声を、かき消していった。
誰しも劇的な最期があるわけじゃない……とある作品から学んだことです。




